激闘連続のセンバツを演出した選手たち=第82回選抜高校野球・総括

松倉雄太

地区大会優勝校の不振がもたらす影響

1回戦で姿を消した東海大相模の一二三 【写真は共同】

 今大会注目の右腕と言われた一二三(ひふみ)慎太(東海大相模高)と岡本健(神戸国際大付高)の2人はいずれも初戦で姿を消した。岡本は大会前に発症した腰の張りが直前になって痛みに変化。2日間延びたことが幸いし、本番では懸念されていたほど悪い印象はなかったが、やはり9回を投げ抜くスタミナには不安があった。不運と言えばそれまでだが、まずはしっかりと治して夏へ向かってほしい。
 一方の一二三は昨秋ほどの球威がまったくなかった。加えて、絶妙だったはずの制球面の乱れも見られた。その影響からか、豊富な球種を序盤から多投したことが、終盤の致命的な失点につながったことは否めない。爪をはがしていた昨秋の方が球に力があったことは何とも皮肉な事だ。

 東海大相模高、神戸国際大付高の2校を含め、今大会は昨秋の地区大会優勝校の不振が目についた。初戦を勝ち上がったのは10校中わずか3校。このうち、北照高と帝京高は、地区大会優勝校同士の対戦だったので、純粋にそれ以外と対戦して勝ち上がったのは大垣日大高だけだった。
 この事実をどう捉えるか。今回の事が悪い影響をもたらすと、今後懸念されるのは地区大会決勝の軽視。近畿や関東、九州のように枠が多い地区では、決勝に進出したチームはほぼセンバツ出場が確定の状況になる。ここで2番手格の投手を試すなど、先を見据えた戦い方に終始する監督も多い。昔は「お前ら今日は負けろ」と言った監督もいたそうだ。今でも地区大会優勝を好まない監督も少なくない。まして神宮大会で研究されるからという度量の狭い監督もいるだろう。しかし、試合をやるのは選手。数年前に取材したある選手は「監督は決勝で負けた方がいいと考えるかもしれませんが、選手はやはり勝ちたいし、負けたくない。それに負けを考えて負けてもチームにとって収穫はありません」と話してくれた。この言葉は至極もっともである。それに神宮大会で研究されると言っても、ひと冬を越えた高校生には当てにする材料にはならない。
 ならば、勝ちを目指す。結果として負けた時にチームは一段階成長する。
 神宮大会を制した大垣日大高、基本枠が一つしかない北照高と帝京高が勝ち上がったのは単なる偶然ではないだろう。
 チームの終着点である夏へ向けて、新チーム結成直後の秋をどう考えるか。地区優勝が不利益と考えるあまり、勝ちたいと一心で戦う選手の気持ちをさえぎるような、心の小さい指導者が増えないことを願うばかりである。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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