ベンフィカの復権とフッキの失われた3カ月=市之瀬敦の「ポルトガルサッカーの光と影」
上位2チームの直接対決はベンフィカが勝利
リーグカップを制したベンフィカ。5季ぶりのリーグ優勝も見えてきた 【Photo:AP/アフロ】
両チームの監督は繰り返し否定したが、試合前の1週間にわたってメディアはさかんに「王者決定戦」とはやし立てていた。サポーターの注目度の高さは、スタンドを埋めた観客約6万3979人という数字を見れば一目瞭然(りょうぜん)であった。もちろん今季リーグ最高の入場者数である。
結果は1−0でベンフィカが勝利。ゴールを決めたのはブラジル代表のセンターバック、ルイゾン。前半ロスタイムに得たCKのこぼれ球を左足できれいに押し込んだ。これで首位ベンフィカと2位ブラガの勝ち点差は「6」と開いた。
リーグ戦の残りは6試合。ベンフィカにはまだスポルティング・リスボンとFCポルトとの対決が待っており予断は許さないものの、5年ぶりの優勝がだいぶ近づいてきたと言ってよいだろう。
2009−10シーズンの前半戦を支配したブラガは疑いなく好チームである。ドミンゴス・パシエンシア監督が構築した組織的守備網は堅固だ。しかし、個々の能力を比べればやはりベンフィカに軍配が上がるのもまた事実。特にサビオラ、アイマール、ラミレス、カルドーソ、ディ・マリアという、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイの代表メンバーをそろえるベンフィカの攻撃陣は、ヨーロッパでも最強レベルにある。
試合開始早々からCKやゴール付近でのFKを立て続けに得たベンフィカ。24分に相手DFの不用意なバックパスをカットしたサビオラが、ブラガのGKエドゥアルドと1対1になったシーンで落ち着いて決めていたら、ゲームはもっと楽になっていただろう。
後半になってもディ・マリアを中心にベンフィカが攻め続けたが、カルドーソが決め切れない。一方のブラガはレンテリアとウーゴ・ビアナとの交代で入ったマテウスとルイス・アギアールがチャンスを作り、GKキムが守るベンフィカのゴールを何度か脅かしたが、ゴールを割ることはできなかった。だが、ゲーム全体を見れば、終始支配したベンフィカが勝者にふさわしかった。
強いベンフィカがよみがえった
それはデータを見てもよく分かる。1試合平均約2.5ゴールはリーグ16チームの中で1位。2位のポルトより0.5点多い。サビオラ、アイマールら有名選手も多く、となると今季のベンフィカはどうしても攻撃力に目が行ってしまうのだが、実は守備もよく整備されている。1試合当たりの平均失点が0.5というのもリーグ1の少なさなのである。攻守ともにバランス良く整備されたチームであるベンフィカが首位をいくのも当然と言えるだろう。
個々のレベルで見れば、ディ・マリアの相手守備陣のバランスを崩すドリブル突破は不可欠な武器となっている。アイマールとサビオラのコンビがパスを交換すれば、誰にも止められない。19ゴールを決め得点ランキング1位のカルドーソは、アシストもできる。ラミレスの縦横無尽の動きはチームの攻撃を常に活性化しているのだ。
さらに両サイドバック、マクシ・ペレイラとファビオ・コエントランの積極的な上がりも有効。特にコエントランは7つのアシストを決め、同部門でディ・マリアと並んで首位である。アンカーのハビ・ガルシアとセンターバックのダビッド・ルイスはファウルに頼る時もあるが、巧みに相手攻撃陣の動きを封じ込める。もちろん彼らの攻撃面における貢献も忘れてはならない。もう1人のセンターバック、ルイゾンはブラガ戦のように貴重なゴールを決めることがあり、すでにベンフィカの歴史にしっかりとその名を刻んだと言ってもよいくらいである。
そして、監督にジョルジュ・ジェズスを迎えたことが大きい。ポルトガルリーグを熟知する経験豊富な同監督は、強いリーダーシップを常に発揮し、指揮したチームでは必ず自身のパーソナリティーを反映させる。すなわち、アグレッシブ、ダイナミック、そしてエモーショナルなサッカーを展開するのである。今季のベンフィカにピタリと来る形容詞ではないだろうか。
さらに素晴らしいのは、選手が変わってもサッカーの質が維持されること。部品を変えても機械の性能は変わらない。1年目にしてこれだけのチームを築いたのだから、ジェズス監督の手腕は高く評価されるべきであろう。
ブラガとのきわめて難しいゲームで勝利を収めたベンフィカ。次に控える4月1日のヨーロッパリーグ準々決勝、対リバプール戦に向けて大きな自信を得たはずである。欧州の強豪としてよみがえるためには、ぜひとも準決勝に勝ち上がりたいところだ。