女子は東龍が史上初の3連覇、男子は東洋が初優勝=春高バレー総括

田中夕子

男子は注目のエース対決

スパイクを決める東洋のエース・柳田。春高バレー初優勝の立役者のひとりになった 【写真は共同】

 一方の男子決勝、ネットを挟んで両エースが対峙した。
 東洋・柳田将洋と鎮西・池田隼平。
 ともに昨年の世界ユース代表として戦い、日頃からメールのやり取りをする間柄。準決勝までは、いつもどちらかの試合後には笑顔で言葉を交わしてきた。
「絶対に負けないからな」
 威嚇するのは池田のほう。柳田はクールに受け流してきた。

 決勝の前だけは、これまでと違った。柳田は公式練習のときから、池田だけでなく、鎮西コートをにらみつけた。
「隼平は自分にとって最高のライバル。だから絶対負けたくない」
 191センチの池田に対し、柳田は186センチ。高さでは池田に利がある。だが、柳田が持つ池田とは異なる魅力について、実際にプレーを見た男子日本代表コーチの諸隈直樹氏はこう評する。
「攻撃専念型の池田くんに対して、柳田くんはサーブレシーブができる。なおかつそれが正確で、自分でそのまま打ちに行く。これは大きな武器です。近い将来、池田と柳田、どちらが全日本に選ばれる可能性が高いかと言えば、現時点では柳田くんのほうでしょう」

 柳田本人は「まだまだ苦手」と言うサーブレシーブだが、決勝でも全体の5割以上、32本のサーブを受けているように、柳田の担う役割は攻撃面だけではない。さらにそれが正確であればあるほど、チームの力も高まる。サーブレシーブ返球率の正確性を高めるために、昨夏から柳田はスパイク練習以上にサーブレシーブの練習に時間を費やしてきた。

勝利の要となったセッター・関田誠大の存在

 攻撃力よりも、守備力を高めることがチーム力向上につながる。その理由を、柳田とともにチーム内ではサーブレシーブの要になるライトの岩橋史明が明かす。
「セッターがうまいので、サーブカットが返ればそれだけ使えるコンビの幅が広がる。柳田の存在も確かにあるけれど、東洋の強さは実は(セッターの)関田(誠大)の存在が大きいんです」

 1年生ながらセッターを務める関田は、駿台学園中時代に全国制覇の経験がある。トスの質もさることながら、ラリー中にもセンターを使う大胆で攻撃的なトスワークを北畠勝雄監督も高く評価する。
「常に堂々とプレーし、アタッカー陣を実にうまく使う。全員が浮き足立っていた初戦でも、関田だけは平常心でプレーしていた。大した1年生です」
 相手チームから厳しくマークされる柳田の負担を減らすためには、ほかの攻撃陣をうまく使い、相手のブロックに「攻撃するのは柳田だけじゃない」と思わせなければならない。
 決勝でも、池田、久木原慧至のサイド攻撃に偏りがちな鎮西に対し、関田はセンター、ライト、時間差と、場面に応じて攻撃陣を巧みに使い分け、圧倒的な高さを誇る鎮西ブロックを翻弄(ほんろう)。その上で、要所では2枚、3枚のブロックが立ち並ぼうと柳田に託した。
「(柳田の)調子が良かったので、絶対に決めてくれると思っていた。十分すぎるぐらいに応えてくれて、本当に助けられました」
 初優勝を懸けた第3セット、24−22の場面でも関田は、迷わずレフトの柳田へトスを上げた。
「たとえ第5セットにもつれても、全部自分が決めてやる、と思ってトスを呼びました。準決勝でミスをして、みんなに迷惑をかけた分、最後に借りを返す働きができて本当によかった。1人ではなく、仲間がいて、みんなで戦ったから勝つことができました」

 エース対決を制したからではない。チーム力の勝利で、東洋が初優勝を成し遂げた。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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