ウルブス処分で物議を醸す“ベストメンバー規定”=「ダニエルG」のサッカー法律講座

客観的な評価

ブラウンやネビルら元代表選手レベルを擁するチームを“二軍”と呼べるかが争点に 【Getty Images】

 客観的にチームを評価する方法として、まず、ウルブスがプレミアリーグに今季昇格して以来の各選手の出場試合数を比べ、出場試合数ランキングで1番から11番までの選手を、マンU戦に出場した選手とつき合わせる、という方法が考えられる。そうすることにより、“一軍”と見なされるべき選手を分析することができる。
 また同様に、最強チームの予備メンバーの定義に関しては、選手が試合の何割までをプレーする必要があるのかも検討しなければならないだろう。さらには、ベストメンバーの編成に、国際レベルで活躍する選手をある特定数で登用することが評価材料となるかどうかも考慮しなければならない。

 チーム全体を入れ替えたものの、その“ベストメンバーでない”とされるチームの大半が、代表選手、あるいは元代表選手だった場合、このようなローテーションを組んだクラブをプレミアリーグが処罰することは、道理に反するように思われる。ただし、ウルブスのように小規模なクラブでは、国際レベルのベテランプレーヤーでチームを編成することはなく、このような評価方法には問題がある。

 前述の通り、各国代表選手の多いリバプールやマンUは、どのようなチーム編成であれ一軍レベルと評することができるだろう。この点について、プレミアリーグはただ単に大幅に選手をローテーションさせる小規模なクラブをいじめているだけだと、とらえることもできる。

ベストメンバー規定の行方

 上記の例で、“二軍チーム”を登用したマンUはハル・シティに1−0で勝利した。ハル・シティが降格とならなかった唯一の理由は、最終節でニューカッスルがアストン・ビラに負けたことにある。
 仮に、ハル・シティがマンUの控えチームに勝ち、またニューカッスルもアストン・ビラに勝ったとしよう。その結果、降格となったニューカッスルが果たして、今回ウルブスが違反したとされる同じ規則を適用し、マンUも処罰すべきだとプレミアリーグに申し立てをしていたかどうかは興味深い点だ。いずれにせよ、ウルブス、マンUおよびリバプールとの間でプレミアリーグの対応が異なることは理解に苦しむ。

 ウルブスのチーフ・エグゼクティブのジェス・モクシーは、「今回の処分により、選手のローテーションやプレミアリーグの規則について、多岐にわたり議論されるようになる」と語った。また、ウルブスのストライカー、ケビン・ドイルはチームに下された決定を強く批判する。
「ビッグクラブは毎週、ほとんどの選手を入れ替えてるじゃないか。どうして自分のところだけ差別されなければならないんだ」

 アーセナルのアーセン・ベンゲル監督は、今回のウルブスのマンU戦におけるラインナップは「プレミアリーグに対する国際的信用を脅かす行動だ」と語る。だが、同じ行為をしながら処分を受けないクラブが存在する中、ウルブスに対する処分を腑に落ちないとするコメンテーターも多い。

 プレミアリーグが躍起になって発信しているメッセージは、「このようなたぐいの規則違反は、将来、あらゆる制裁処分を有する懲罰委員会にかけられる」ということである。
 確かに、今回ウルブスに科された執行猶予付きの小額の罰金は、プレミアリーグの全クラブに対し、毎試合ベストメンバーを出場させようとする警告とも言える。今シーズン終盤にはリーグ内の順位が確定し、特定の試合を優先させるクラブも出現するかもしれない。さあ、楽しい罰金ゲームのはじまり、はじまり!

<了>

チャリティー・ゲーム

フィールド・フィッシャー・ウォーターハウスLLP法律事務所(FFW)が支援する「フットボール・エイド(Football Aid)」は、糖尿病リサーチと糖尿病患者のサポートのために募金活動を続ける慈善団体。コンセプトはシンプルで、サッカーファンなら誰もが夢見る、本物の試合の醍醐味(だいごみ)を体験してもらおうというもの。「フットボール・エイド」が運営するチャリティー・ゲームに参加することで、オールド・トラフォードやアンフィールドといった世界トップクラスのホームグラウンドで、サポートするチームのユニホームを着て90分間サッカーを楽しむ、そんな夢を実現できる可能性も。「Live The Dream」プロジェクトに興味のある方は、『www.footballaid.com』まで

2/2ページ

著者プロフィール

ニックネームは「ダニエルG(ジー)」。フィールド・フィッシャー・ウォーターハウスLLP法律事務所(FFW)所属の英国法弁護士で、専門はスポーツ法。リバプール出身。リバプールFCのシーズンチケット保有者。得意なスポーツはサッカー、テニス、クリケット、トライアスロン。FFWはスポーツ法を専門に扱うチームを擁し、スポーツに関する幅広い法律相談を提供している。取扱分野は、テレビおよびメディア権、スポンサーシップ、ブランド保護、スポーツくじ、ゲーミング、マーチャンダイジング、発券業務、コマーシャル契約、訴訟、スポーツビジネスの買収および資金調達、スタジアム開発など。問い合わせは、daniel.geey@ffw.com(日・英可)まで。ツイッターアカウントはDaniel@footballlaw。なお、ダニエル・ギーイがこれまでに執筆したサッカー法に関する論文は公式ウェブサイトで読むことができる(英語のみ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント