ウルブス処分で物議を醸す“ベストメンバー規定”=「ダニエルG」のサッカー法律講座

ウォルバーハンプトンへの罰金処分

ウォルバーハンプトンはマンU戦に控え選手主体で臨み、プレミアリーグから罰金を受けた 【Getty Images】

 ウォルバーハンプトン・ワンダラーズ(ウルブス)は2月18日、昨年12月15日のマンチェスター・ユナイテッド(マンU)戦において控え選手主体でチームを編成・出場させ、イングランド・プレミアリーグの規則に違反したとして2万5000ポンド(約360万円)の罰金(執行猶予付き)を受けた。
 12月12日のアウエーでのトッテナム戦に1−0で勝利したウルブスは、その3日後に行われた敵地でのマンU戦ではGKを除く10人の選手を入れ替え、0−3で敗れた。そして、20日のホームでのバーンリー戦では再び主力選手で臨み、2−0で勝利を収めていた。

 今回、プレミアリーグ理事会がウルブスに違反があったと判断した規則は、B.13およびE.20である。規則B.13は、プレミアリーグの全クラブが「互いのクラブおよび本リーグに対し、最大善意をもって」振る舞うことを規定している。また規則E.20は、「すべてのリーグ戦の試合において、参加クラブは最強チームを出場させなければならない」と、いわゆるベストメンバー規定を明記している。
 だが過去においても、ここぞという試合で監督が控え選手を出場させ、大幅な選手交代を行いながらも罰を受けていないケースは存在する。このことから、国内ではウルブスに対する今回のプレミアリーグ理事会の決定を疑問視する声が上がり、前例について国内で議論が高まっている。

 元シェフィールド・ユナイテッドの監督ニール・ウォーノック氏は、チームが1部に所属していた2006−07シーズン当時、リバプールとマンUがシェフィールド・Uと残留を争っていたチームとの試合で、控え選手中心のチームを出場させたことにより自らのチームが降格となったとし、歯に衣(きぬ)着せぬ発言を行っている。
「プレミアリーグが彼ら(ウルブス)に罰金を科すなんて、恥さらしもいいとこだよ。プレミアリーグはユナイテッドやリバプールには罰金を科さなかった。お門違いも甚だしいよ。フラム戦(07年5月5日)のリバプールのチーム、ウェストハム戦(同13日)のマンチェスター・ユナイテッドのチームはどんな処分を受けったっていうんだ。彼らはポイントをはく奪されたかい? そうは思えないね」

 選手のローテーションは、選手を休ませること、また選手の故障に関する主観的な判断を伴うため、対応の難しい分野である。おそらく今回、ウルブスが不利な状況に陥った原因の1つは、マンU戦の5日後に控えていた、残留争いの直接のライバルであるバーンリーとの試合の方を優先する、とミック・マッカーシー監督がきっぱりと言い放ってしまったことにある。
 はるばるマンチェスターまで応援に駆けつけ40ポンド(約5500円)を払った揚げ句、控え選手で編成されたチームがマンUと戦うのを観戦するはめになったウルブス・サポーターは怒り狂ったという。

マンUとリバプールの大幅なローテーション

 以下に、マンUとリバプールによる大幅なローテーションの例を紹介する。
 マンUの例は、昨季ちょうどプレミアリーグ3連覇を決め、残り試合が1つとなった時のものである。マンUは5月24日にハル・シティと対戦、その3日後にチャンピオンズリーグ(CL)のバルセロナとの決勝を控えていた。
 16日のアーセナル戦では、まだリバプールとのタイトル争いに決着がついていなかったため、ベストメンバーを起用している。しかし、いったんプレミアリーグ優勝が決まると、CL決勝前に行われたハル・シティ戦では、アーセナル戦から11人中10人を入れ替えているのが分かる。

<アーセナル戦(09年5月16日)メンバー>
ファン・デル・サール、オシェイ、ビディッチ、エバンス、エブラ、フレッチャー、キャリック、ギグス、ルーニー、テベス、ロナウド

<ハル・シティ戦(09年5月24日)
クシュチャク、ラファエル、ブラウン、ネビル、デ・ラート、ナニ、フレッチャー、ギブソン、ウェルベック、マーティン、マケダ

 マンUのアレックス・ファーガソン監督はフレッチャー以外の選手10人の入れ替え(ウルブスのマッカーシー監督がマンU戦で入れ替えた選手と同数)を行っているが、プレミアリーグから処罰は一切受けていない。この場合、ハル・シティ戦に出場したナニ、ブラウン、ネビルといった各国代表クラスの選手を起用したチームを“控えチーム”と呼べるかどうかが争点となる。

争点となる“二軍選手”の質

 一方、リバプールは06−07シーズン、チェルシーとのCL準決勝第2戦の4日後に行われたフラム戦で、9人の選手を入れ替えている。しかし、9人が入れ替わったとはいえ、フラム戦のチームには9人の国際レベルの選手が含まれていた。当時、チームの中で自国の代表に選出されていない選手はアルベロアとインスアのみであったが、後に両者とも、スペイン(アルベロア)とアルゼンチン(インスア)の代表になっている。

<チェルシー戦(07年5月1日)メンバー>
レイナ、フィナン、アッガー、リーセ、キャラガー、ペナント、ジェラード、ゼンデン、マスチェラーノ、カイト、クラウチ

<フラム戦(07年5月5日)メンバー>
レイナ、アルベロア、パレッタ、ヒーピア、インスア、ペナント、アロンソ、シソコ、ゴンザレス、ファウラー、ベラミー

 マンUとリバプールの“二軍チーム”に見られる特徴は、たとえ10人もしくは9人の選手の入れ替えがあったとはいえ、依然、両チームには自国を代表する国際レベルの選手が存在していたということである。監督がチームのラインナップを入れ替えることができるかどうかは、そのチームがどれだけ強いかを示唆する。今回の処分に関する決定過程をプレミアリーグが公開しない限り、懲罰を下した理事会がどのような基準をもってウルブスのベストメンバーを評価したかを計り知ることは非常に難しい。

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著者プロフィール

ニックネームは「ダニエルG(ジー)」。フィールド・フィッシャー・ウォーターハウスLLP法律事務所(FFW)所属の英国法弁護士で、専門はスポーツ法。リバプール出身。リバプールFCのシーズンチケット保有者。得意なスポーツはサッカー、テニス、クリケット、トライアスロン。FFWはスポーツ法を専門に扱うチームを擁し、スポーツに関する幅広い法律相談を提供している。取扱分野は、テレビおよびメディア権、スポンサーシップ、ブランド保護、スポーツくじ、ゲーミング、マーチャンダイジング、発券業務、コマーシャル契約、訴訟、スポーツビジネスの買収および資金調達、スタジアム開発など。問い合わせは、daniel.geey@ffw.com(日・英可)まで。ツイッターアカウントはDaniel@footballlaw。なお、ダニエル・ギーイがこれまでに執筆したサッカー法に関する論文は公式ウェブサイトで読むことができる(英語のみ)

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