ついに実現した「イチローvs.松井秀」=ICHIRO Decade 2003

木本大志
 今季、米大リーグ移籍10年目を迎えるマリナーズのイチロー。渡米後さまざまな偉業を成し遂げ、名実ともにスーパースターの地位を確立した彼が、ベースボール発祥の地で紡いできた幾多の逸話を、いま一度掘り起こしてみる。そして、来る2010年シーズン開幕へ――。大リーグ史上に燦然(さんぜん)と輝くディケード(10年間)がついに完成する。

Decade 2003

イチロー(右)と松井秀、日本人スター選手二人の直接対決がメジャーの舞台で実現した 【Getty Images】

 2003年、マリナーズは開幕戦を日本で行う予定だった。しかし、出発直前の3月18日になって中止が決まった。

 前日、当時のジョージ・ブッシュ大統領が、イラクのサダム・フセイン大統領に対し、「イラクを離れろ。さもなければ攻撃する」と最終通告。その期限を「48時間以内」とした。

 しかし、フセイン大統領が国を離れることは考えにくく、開戦が避けられないとして、バド・セリグ・コミッショナーが中止を決断。選択肢はなかったようだ。

 中止決定後、イチローも戸惑いながら、「自分たちの身の危険、国民の命に関わるようなことですから、ちょっと重いです。流れに任すしかない」と話し、あとは口が重い。当時のチームメートだった佐々木主浩、長谷川滋利も言葉を搾り出すのに苦労した。

 以来、リーグはマリナーズに日本開幕戦開催の優先権を与えているものの、実現には至っていない。

 実はその翌年(04年)の春、ヤンキースが一足先に日本開幕戦を行った。前年、つまりこの年にデビューした松井秀喜にリーグはあやかったのだった。

母国より熱を帯びた米メディアの報道

「イチローvs.松井秀」をこぞって煽った米メディア(写真は03年4月29日付けのニューヨーク・ポスト紙) 【Photo:Thomas Anderson/AFLO】

 この年の前半のハイライトは、その松井とイチローの対戦。日本ではゴールデンウィークの最中、マリナーズがニューヨークに遠征すると、その対決を煽ったのは、日本メディアより、むしろ米メディアで、シアトル・タイムズ紙はスポーツ面のトップで大きく二人を対比。米スポーツ専門放送局ESPNの『ベースボール・トゥナイト』では、ミニコーナーを設けてまで、ボビー・バレンタイン元ロッテ監督が、日本での実績、バッティングフォームの比較など、“Ichiro vs. Godzilla”を解説した。

 確かに、旧ヤンキー・スタジアムのファウルグラウンドを日本人メディアが埋め尽くしたが、米メディアのそうした便乗ぶりも極端。

 イチローいわく、「米国のマスコミは、(日本の報道に)乗っかっているというか、ちゃかりしてる印象があります」

 ちゃっかりは続く。

 米巨大メディアの一つ、タイム・ワーナーがイチローを中心とした日本人選手を扱う本を企画。ロバート・ホワイティング氏に執筆を依頼した。

 4月22日、シアトルを訪れたホワイティング氏は、佐々木と長谷川にインタビュー。全米を回って日本人選手に取材を重ねた。

 米国内はもちろん、日本でも出版の計画があり、タイム・ワーナーは、いち早く日本人選手のブームをかぎつけていたことになる。

 ホワイティング氏は、「時代が変わったね」と呟き、こんな話をしてくれた。

「かつて、本の企画を持ち込んでも、編集者からは、『日本とベースボールだけは売れないからやめておけ』と言われたもの。今回は、その2つが主題なのだから(笑)」

 イチローの出現は、米国人の価値観にも変化を与えていたということか。

 ちゃっかりはなおも続く。

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