プレミアリーグのクラブ買収の舞台裏=「ダニエルG」のサッカー法律講座
規格外のアブラモビッチの投資
03年にチェルシーを買収して以来、アブラモビッチは選手補強に多額の資金を費やした 【Photo:アフロ】
アストン・ビラ:ランディ・ラーナー(06年8月)
バーミンガム:カーソン・ヨン(09年11月)
チェルシー:ロマン・アブラモビッチ(03年7月)
ハル・シティ:ラッセル・バートレット(07年6月)
リバプール:ジョージ・ジレット&トム・ヒックス(07年3月)
マンチェスター・シティ(マンC):シャイフ・マンスール(08年9月)
マンチェスター・ユナイテッド(マンU):グレーザー・ファミリー(05年7月)
ポーツマス:スレイマン・アル・ファヒム(09年10月)
サンダーランド:エリス・ショート(09年5月)
ストーク・シティ:ピーター・コーツ(06年5月)
ウェストハム:デイビッド・ゴールド&ダイビッド・サリバン(10年1月)
ウォルバーハンプトン:スティーブ・モーガン(07年8月)
近年、最も話題になった買収の1つが、03年7月のアブラモビッチによる1億4000万ポンド(約263億円/当時)のチェルシー買収だ。以来、彼は移籍金や給与としてチェルシーに6億ポンド(約835億円)をつぎ込んだと言われている。
アブラモビッチはクラブ買収から3年間で、アンドリー・シェフチェンコ(3000万ポンド=約63億円/06年当時)、ミカエル・エシアン(2400万ポンド=約46億円/05年当時)、ディディエ・ドログバ(2400万ポンド=約50億円/04年当時)、ショーン・ライト=フィリップス(2100万ポンド=約42億円/05年当時)、リカルド・カルバーリョ(1900万ポンド=約32億円/04年当時)、アドリアン・ムトゥ(1900万ポンド=約37億円)、ダミアン・ダフ(1700万ポンド=約33億円)、ファン・セバスティアン・ベロン(1600万ポンド=約31億円)、エルナン・クレスポ(1600万ポンド/いずれも03年当時)と、多額を投資した。
その後、チェルシーは04−05シーズンと翌シーズンにプレミアリーグ優勝、07年と09年にFAカップ、05年と07年にはカーリングカップのタイトルを手にしている。興味深いことに、アブラモビッチにチェルシーを売却したケン・ベイツは次のように語っている。
「これがスーパーリッチな人間による“侵略”の始まりだとすると、ファンがどう反応するか見ものですね」
赤字まみれのプレミアのクラブ
その1つの例がマンUだ。06−07シーズンからリーグ3連覇、07−08シーズンにはCL優勝など、近年も数々のタイトルを誇るユナイテッドだが、05年のグレーザー・ファミリーによる買収以来、借金は7億1650万ポンド(約1030億円)に達すると言われる。
買収後の3年間で、マンU買収のための必要資金を融資した多数の投資銀行やヘッジファンドに支払われた利息額は、8600万ポンド(約134億円)にもなる。クリスティアーノ・ロナウドをレアル・マドリーに8000万ポンド(約127億円)で売っていなければ、マンUの赤字は2年連続で3000万ポンド(約47億円/いずれも09年当時)を超える事態になっていたという会計報告がある。しかし、プレミアリーグの中で最大の“年間赤字大賞”に輝くのはマンCだ。新オーナーのシャイフ・マンスールがクラブを買収してからの年間赤字は、9260万ポンド(約137億円)に上る。
プレミアリーグのクラブが抱える多額の債務や赤字の額を明らかにすることには理由がある。それは、UEFA(欧州サッカー連盟)が加盟クラブに対し、「ファイナンシャル・フェアプレー(financial fair play)規則」と呼ばれる、公正な財務の取り扱いを定めた規則を導入しようとしているからである。会長のミッシェル・プラティニは、「クラブは、自分たちの収益を上回る額を再三にわたり浪費すべきではない。アブラモビッチ、シャイフ・マンスールといった金持ちの後援者が、湯水のようにお金を使うことがあってはならない」と主張する。
計画の進むこの規則は、12−13シーズンに導入されるとうわさされている。このような規則がいったん導入されれば、収益性の高いCLまたはヨーロッパリーグ(EL)に参加しようするクラブは、UEFAに定められた厳しい財務上の条件を満たしていなければならないことになる。