セリエAで蔓延する人種差別=バロテッリ問題は氷山の一角か

ホンマヨシカ

イタリアで増え続ける不法滞在者

昨季のユーベ・ウルトラスによるバロテッリへのやじをインテルサポーターが非難 【Getty Images】

 僕が地下鉄やバスに乗車した時に、無意識に車内を見回してイタリア人の乗客数を数えるようになったのは、どの位前からだろうか。
 実際に1人1人確認しているわけではないから、イタリア人だと思っている人がそうでない場合もあると思うし、その逆もあるだろう。これら交通機関の時間帯にもよるが、一見して非ヨーロッパ系と思われる乗客が半数以上のこともそう珍しくはない。1974年に僕がイタリアへやって来たころは、地下鉄やバスに乗ると、珍しそうにじろじろ見られたりしたことを思うと、大変な変わりようだ。

 イタリアに在住する外国人の数だが、合法的に滞在している約400万人のほかに、約100万人の不法滞在者がいるという。これに加えて、毎年約15万人の不法入国者が入ってくる。これだけ外国人、それも毎年多くの不法入国者の増加があると、必然的に人種差別等の問題も起きてくる。

 昨年はトスカーナ地方の町・プラートで中国系住民のマナーの悪さが社会問題化したし、新年早々には、南イタリアのレッジョ・カラブリア州の町、ロザルノでアフリカ系移民と市民との激しい衝突が起きたばかりである。これらの問題は、単にイタリアだけで起きているのではなく、ヨーロッパ主要国でも見受けられる。日常生活でこのような問題を抱えていると、サッカーのような国民的スポーツにも影響を与えるのは当然のことだと言える。

移民問題の落とし子バロテッリ

 そういえば、イタリアサッカー界における外国人選手の数も、僕が来たころに比べると大変な増加ぶりである。74年当時はまだ外国人選手の入団が解禁されていなかったので、セリエAでプレーしていた外国人選手は、新規契約が禁止される64年の前年までに入団した5人のベテラン選手だけだった。だが今では、ほぼすべてのクラブが5人以上の外国人選手を抱えている。その中には、インテルのように試合に出場する選手全員が外国人、というクラブも見られるようになった。

 そのインテルだが、チーム内でレギュラー(もしくは準レギュラー)と言えるイタリア人選手は、マリオ・バロテッリただ1人である。バロテッリはシチリアのパレルモでガーナ人移民の両親の間に生まれたが、2歳の時にブレシアのイタリア人家族に引き取られて今日に到る。まさに現在イタリアが抱えている移民問題の落とし子だと言ってもよいだろう。

 2007年12月にインテルの選手として弱冠17歳でセリエAデビューを果したバロテッリは、すぐにその並外れた身体能力とテクニックを披露した。その後もセリエAの頂点を維持しているインテルで存在感を見せつけてはいるのだが、バロテッリがマスコミで取り上げられる場合、常に人種差別問題が絡んでくる。
 なぜなら、彼がアウエーゲームでプレーするスタジアムでは、必ずといってよいほど激しいブーイング(黒人選手に対する「ブー! ブー!」というやじ)が相手チームのウルトラス(熱狂的サポーター)から起こるからだ。特にバロテッリを標的としたネガティブなスローガン(掛け声)や激しいブーイングを行っているのが、インテルの因縁のライバルであるユベントスのウルトラスである。

 昨年4月18日に行われたユベントス−インテル戦では、ユーベ・ウルトラスは90分にわたり、バロテッリに対して聞くに堪えない激しいスローガンとブーイングを浴びせた。
 スタジアムで観戦していなかったインテルのモラッティ会長は、試合の翌日にマスコミの取材に対して「もし、わたしがトリノのスタジアムにいたのなら、ある時点でチームをピッチから引き揚げさせただろう」と憤慨した。

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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