セリエAで蔓延する人種差別=バロテッリ問題は氷山の一角か

ホンマヨシカ

バロテッリが標的にされる理由

やじの標的になっているバロテッリ(左)だが、本人の態度にも問題があると言われる 【Getty Images】

 これらのユーベ・ウルトラスの行為に対して、サッカー協会の懲罰委員会は、ユベントスにホームゲーム1試合を無観客にするよう処分を下した。FIFA(国際サッカー連盟)もUEFA(欧州サッカー連盟)も、頻繁に起こる人種差別的なスローガンやブーイングに対して、よりいっそう厳しい処罰を与えるようにしているのだが、これらの行為が静まる気配がないのが現状だ。
 例えば、今シーズンのユーベ・ウルトラスは対戦相手がインテルではない試合にもかかわらず、試合中にバロテッリを誹謗(ひぼう)するスローガンを叫ぶという行為を犯している。

 しかし、バロテッリがこれほど激しく標的とされるのは、単に「肌の色が黒いから」という理由によるものではない。バロテッリの若者らしい初々しさのない、傲慢(ごうまん)とも言えるプレー態度にも起因しているのだ。

 ミランに所属する黒人選手クラレンス・セードルフは09年11月のインタビューで「バロテッリが観客から侮辱されるのは、肌の色が黒いからではなく、彼の態度が原因だ。これは人種差別問題ではない。イタリアは人種差別国家ではない。これまで僕は試合中に観客から1度も侮辱されていないのに、バロテッリが受けるのを見ても分かるだろう。彼は態度を改めなければいけないよ。ボローニャ戦(09年11月21日)で観客に向かって見せた(ゴールを入れた直後に)指を口に当てて静かにしろというジェスチャーは挑発でしかない」と語っている。

 ベローナやローマの選手として活躍しただけではなく、公私共に真摯(しんし)な態度で尊敬されていたダミアーノ・トンマージも同じ意見だ。それ以上に、トンマージは日常生活では頻繁に起きている人種差別問題も、サッカーの世界では存在しないと言い切っている。

サッカー界の人種差別問題は日常生活の縮図?

 しかし、果たしてそう言い切れるのだろうか。
 僕が最初にセリエAにおける人種差別に関係した記事を目にしたのは、1992−93シーズンが始まる前だったと思う。シーズンオフにラツィオがオランダ代表のアーロン・ビンターの獲得を発表した時のことだった。
 最初ラツィオのウルトラスはビンターの獲得に激しく反対していた。その反対の理由というのが、アーロンという名前から彼がユダヤ人ではないのかと疑われたからだった。ユダヤ人に対する嫌悪感が根強いことを感じさせられた出来事だった。

 このように、黒人選手でなくとも試合中に人種差別的な侮辱を受ける選手がいることは確かだ。フィオレンティーナに所属するルーマニア人、アドリアン・ムトゥもその1人だ。
 2シーズン前のことだが、以前在籍していたパルマとの試合でムトゥが途中交代した時、パルマのサポーターから「ジンガロ! 糞ったれのジンガロ!」との罵声(ばせい)を浴びせられた。イタリア語で「ジンガロ」はロマ(ジプシー)の意味で、ロマの多くはルーマニアや旧ユーゴスラビアから流れて来ている。ムトゥに対する罵声は恐らく、古巣相手に2ゴールを決めた“元アイドル”に裏切られたという思いが募ってのことだろう。

 また、イタリアサッカー界における人種や地域に対する差別は、外国人に対してだけではない。例えばナポリに代表される南イタリアのクラブに対し、北イタリアのクラブのウルトラスが掲げたり連呼したりするスローガンは、昔から差別的な要素を含んでいる。ナポリに対する「頑張れベェスビオ」(ナポリを裾野に持つ現在も活火山であるベェスビオの噴火に対する応援)というやじはその最たるものだ。
 ユーベやインテル、ミランなどのウルトラスには、ナポリといった南から出稼ぎに出てきた移民の子孫も多く含まれるのにもかかわらず、ウルトラスたちは南イタリアのクラブに対して侮辱的なスローガンを繰り返している。 

 イタリアサッカー界で起きているこれらの出来事は、前述したトンマージの言うように「サッカーの世界では人種差別問題は存在しない」のではなく、常に日常生活で起きている問題が、そのまま忠実に反映しているように思えてならない。
 最後に、僕の35年におよぶイタリア生活で、これまで人種差別を感じたことは1度もないことを、多くの善良なイタリア人の名誉の為にも記しておきたい。

<了>

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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