男子注目プレーヤー紹介〜日本一を懸けた決戦に向けて〜=天皇杯・皇后杯バスケ オールジャパン2010

小永吉陽子
 1月9日より準決勝を迎える全日本総合バスケットボール選手権(オールジャパン)。前回の女子に続き、男子ベスト4進出チームの中から注目選手を紹介しよう。準々決勝で仕上がりの良さを見せたパナソニックの司令塔・木下博之。創部3年目で初の準決勝に進出したレラカムイ北海道のニューフェイス・松井啓十郎だ。

木下博之――30歳目前で見つけた理想の司令塔像

スピードとスタミナ、キレ味のあるシュートでチームに貢献するパナソニックの木下博之 【(C)JBA】

 ここ2年くらいだろうか。木下博之の動きにキレ味が増している。持ち前の運動能力と底知れぬスタミナでコートを縦横無尽に動き回り、パナソニックのリズムを作っている。 準々決勝のトヨタ自動車戦では、走りがほしいときは広瀬健太へ、アウトサイドなら永山誠へ、インサイドの展開なら青野文彦へとパスを配給し、大事なところでは自分がきっちりとシュートを決める勝負強さを見せた。

 安定してきた理由を木下本人は「オン・ザ・コート・ワンが影響している」と語る。これまでは外国人選手2人や青野、永山、大野篤史といった得点を取るプレーヤーがたくさんいたが、外国人選手が一人しかコートに立てない現ルールでは、得点源が限られるため、自らも攻めることが求められる。
「周りが調子のいいときは周りに攻めさせて、周りがしんどいときは自分が攻める」(木下)ことが機能してきたからこそ、自身の得点力も生き、新しいパナソニックの形ができたというのだ。

 数年前、代々木第二体育館で開催された試合で敗れたあと、人目につくミックスゾーン(試合後、コーチや選手に取材できる場所)の近くで清水良規ヘッドコーチに叱責(しっせき)されながら、立たされている木下を見たことがある。JBL選手でありながら、大の大人が、試合後に立たされている姿はまるで高校生のよう。清水ヘッドコーチに聞けば「アイツは自分の立場を自分で気付かなくてはならないから」と干した理由を言っていた。あの当時から思えば、今の木下はチームメートから信頼を寄せられる司令塔へと変ぼうを遂げている。
「木下がここまで来るには紆余(うよ)曲折あった。彼には自分が35分プレーすることがどういうことか、責任ある立場ということをハートの部分で分かってほしかった。それは青野も同じだった。今? 今はうちにはなくてはならない存在や。木下も青野も」(清水HC)

 気がつけば木下もトップリーグに在籍し8年目、今年で30歳になる。紆余曲折の末にたどりついた司令塔論「ガードが攻めることで味方を助ける」(木下)プレースタイルで、パナソニックを決勝進出、そして1997年以来13年ぶりとなる日本一へ導くことができるか。

「今のJBLはアイシンを倒さないかぎり優勝はない。だから(準決勝は)勝ちに行きます」(木下)

松井啓十郎――アメリカで培った“タフショット”の先にあるもの

レラカムイの新星・松井啓十郎。折茂武彦の後継者としても注目が注がれるシューター 【(C)JBA】

「KJ(松井の愛称)はルーキーであってルーキーではない」と東野智弥ヘッドコーチにリーグ開幕時からNCAA(全米大学バスケットボール)での経験を買われていた松井啓十郎。
 準々決勝の東芝戦。松井のクイックリリースから放たれるスリーポイントは鮮やかにネットを射抜き、要所で15得点をたたき出してレラカムイ初のベスト4進出に貢献した。

 松井の魅力はちょっとしたすきをも見逃さず、タフショット(難しいシュート)を難なく決めること。これまでの日本人にはいなかった「バランス感覚の優れたシューター」(東野HC)がやって来たのだ。レラカムイにとっては、39歳のエース、折茂武彦の控えができたことは何より心強い。また相手チームにとっては、折茂と松井が一緒にコートに立つときは両サイドのシューターに気を配らなければならない厄介な面も出てきた。

 米国の名門・モントロス・クリスチャン高校からNCAAディビジョンIのコロンビア大に進んだが、卒業後は日本でプレーすることを選んだ。
 帰国当初はNCAAの35秒ルールが体に染み込んでいたせいか、国際ルールのショットクロック24秒が速く感じて、いいシュートセレクションを逃していたという。また、これは昨シーズン日本に復帰した田臥勇太(リンク栃木)も言っていたことだが「日本の選手はボールをもらうまでごちゃごちゃと動き回る。米国ではシンプルな動きだったから、それが慣れなかった」と、チームメートの動きに振り回されることもあった。

 日本のスタイルを短期間でマスターしつつあるのは、同じポジションの大先輩、折茂と常に練習でマッチアップをしているからだ。「チームの動きの中でどうすればボールがもらえるか、マークが振り切れるかを、日本一のシューター折茂さんから学んでいます」
 一方で、シューターとしてスクリーンの使い方やスピードでかき回すプレーは勉強中で、「ノーマークを作る動きが日本のバスケットの面白さ」だと発見も多々あるという。試合中には先輩たちにプレーの注文をつける強気な姿勢も見られる。
「米国では年齢に関係なく、自分の意思を出すことが当たり前だった。自分が米国でやってきたことを出していくことで、少しでも日本のバスケに影響すればいいかなと思います。でもここは日本なので、ものの言い方を考えていますけど(笑)」と、思ったことを口にする素直な一面ものぞかせる。
 
 準々決勝の東芝戦では、レラカムイのシュートは当たった。しかし「これをコンスタントに出さなければ意味がない。それがうちのキーだと思います」と準決勝の日立戦に向けて気を引き締めながらも「米国にはなかったナンバーワンを決めるトーナメントにワクワクしているので、準決勝もシュートを打ち続けるだけ」と、今の松井は戦うことがとても楽しそうだ。

「ルーキーであってルーキーではない」――東野HCが言うように、まだ完全には慣れない日本のプレースタイルの中で、すでに存在感は十分に示している。
 この先、これまでの日本人にはいなかったKJが放つ“タフショット”がもたらす影響に注目していきたい。

<了>
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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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