男子注目プレーヤー紹介〜日本一を懸けた決戦に向けて〜=天皇杯・皇后杯バスケ オールジャパン2010
木下博之――30歳目前で見つけた理想の司令塔像
スピードとスタミナ、キレ味のあるシュートでチームに貢献するパナソニックの木下博之 【(C)JBA】
安定してきた理由を木下本人は「オン・ザ・コート・ワンが影響している」と語る。これまでは外国人選手2人や青野、永山、大野篤史といった得点を取るプレーヤーがたくさんいたが、外国人選手が一人しかコートに立てない現ルールでは、得点源が限られるため、自らも攻めることが求められる。
「周りが調子のいいときは周りに攻めさせて、周りがしんどいときは自分が攻める」(木下)ことが機能してきたからこそ、自身の得点力も生き、新しいパナソニックの形ができたというのだ。
数年前、代々木第二体育館で開催された試合で敗れたあと、人目につくミックスゾーン(試合後、コーチや選手に取材できる場所)の近くで清水良規ヘッドコーチに叱責(しっせき)されながら、立たされている木下を見たことがある。JBL選手でありながら、大の大人が、試合後に立たされている姿はまるで高校生のよう。清水ヘッドコーチに聞けば「アイツは自分の立場を自分で気付かなくてはならないから」と干した理由を言っていた。あの当時から思えば、今の木下はチームメートから信頼を寄せられる司令塔へと変ぼうを遂げている。
「木下がここまで来るには紆余(うよ)曲折あった。彼には自分が35分プレーすることがどういうことか、責任ある立場ということをハートの部分で分かってほしかった。それは青野も同じだった。今? 今はうちにはなくてはならない存在や。木下も青野も」(清水HC)
気がつけば木下もトップリーグに在籍し8年目、今年で30歳になる。紆余曲折の末にたどりついた司令塔論「ガードが攻めることで味方を助ける」(木下)プレースタイルで、パナソニックを決勝進出、そして1997年以来13年ぶりとなる日本一へ導くことができるか。
「今のJBLはアイシンを倒さないかぎり優勝はない。だから(準決勝は)勝ちに行きます」(木下)
松井啓十郎――アメリカで培った“タフショット”の先にあるもの
レラカムイの新星・松井啓十郎。折茂武彦の後継者としても注目が注がれるシューター 【(C)JBA】
準々決勝の東芝戦。松井のクイックリリースから放たれるスリーポイントは鮮やかにネットを射抜き、要所で15得点をたたき出してレラカムイ初のベスト4進出に貢献した。
松井の魅力はちょっとしたすきをも見逃さず、タフショット(難しいシュート)を難なく決めること。これまでの日本人にはいなかった「バランス感覚の優れたシューター」(東野HC)がやって来たのだ。レラカムイにとっては、39歳のエース、折茂武彦の控えができたことは何より心強い。また相手チームにとっては、折茂と松井が一緒にコートに立つときは両サイドのシューターに気を配らなければならない厄介な面も出てきた。
米国の名門・モントロス・クリスチャン高校からNCAAディビジョンIのコロンビア大に進んだが、卒業後は日本でプレーすることを選んだ。
帰国当初はNCAAの35秒ルールが体に染み込んでいたせいか、国際ルールのショットクロック24秒が速く感じて、いいシュートセレクションを逃していたという。また、これは昨シーズン日本に復帰した田臥勇太(リンク栃木)も言っていたことだが「日本の選手はボールをもらうまでごちゃごちゃと動き回る。米国ではシンプルな動きだったから、それが慣れなかった」と、チームメートの動きに振り回されることもあった。
日本のスタイルを短期間でマスターしつつあるのは、同じポジションの大先輩、折茂と常に練習でマッチアップをしているからだ。「チームの動きの中でどうすればボールがもらえるか、マークが振り切れるかを、日本一のシューター折茂さんから学んでいます」
一方で、シューターとしてスクリーンの使い方やスピードでかき回すプレーは勉強中で、「ノーマークを作る動きが日本のバスケットの面白さ」だと発見も多々あるという。試合中には先輩たちにプレーの注文をつける強気な姿勢も見られる。
「米国では年齢に関係なく、自分の意思を出すことが当たり前だった。自分が米国でやってきたことを出していくことで、少しでも日本のバスケに影響すればいいかなと思います。でもここは日本なので、ものの言い方を考えていますけど(笑)」と、思ったことを口にする素直な一面ものぞかせる。
準々決勝の東芝戦では、レラカムイのシュートは当たった。しかし「これをコンスタントに出さなければ意味がない。それがうちのキーだと思います」と準決勝の日立戦に向けて気を引き締めながらも「米国にはなかったナンバーワンを決めるトーナメントにワクワクしているので、準決勝もシュートを打ち続けるだけ」と、今の松井は戦うことがとても楽しそうだ。
「ルーキーであってルーキーではない」――東野HCが言うように、まだ完全には慣れない日本のプレースタイルの中で、すでに存在感は十分に示している。
この先、これまでの日本人にはいなかったKJが放つ“タフショット”がもたらす影響に注目していきたい。
<了>
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ