学生チームが「打倒JBL」を掲げる意義=天皇杯・皇后杯バスケ オールジャパン2010 第2日

北村美夏

慶應大の伝統を受け継ぐ主将の、心残りと覚悟

慶應大の主将#4田上はあきらめない姿勢を貫けるか 【(C)JBA】

 一方、「JBLチームを倒す」という目標のもと、今シーズン最後の挽回をコートで期す4年生は2人だ。そのうちの1人である主将の#4田上和佳は、自分たちの敗戦で優勝を手放したリーグ最終週からここまで、ずっと考えていることがあった。
「リーグの結果はチームの士気が落ちてしまっていたから。そこでリーグからインカレまでの1カ月は、練習中から“楽しもう”と心掛けました。楽しむことはチームでうまくなっていく下地みたいなものの1つだと僕は思ったんです。でもインカレ決勝ではまた士気が元に戻ってしまった。その原因はというと、僕が佐々木先生と同じ視点に立つばかりでチームの下地が十分でなかったからではないかと思うんです」

 恐縮なんですが、と前置きして、田上は自分の考え方が佐々木コーチに似ていると感じていたと明かした。コーチと主将の考えが一致しているのはチームにとって悪いことではないように思えるが、田上は言う。
「勝利を求める上でさまざまな問題を解決していくのは1人1人の意思次第です。ならば先生がしかってくださったとき、主将の僕は反対に明るく引っ張っていくのが大事だったのではないかと。それを春から続けられていれば、きっとチームは軌道に乗ったはず……」

 さらにもう1つ心残りがあった。学生にとって最も手に入れたいタイトルであるインカレの決勝前夜、田上は1人になって決勝の持つ意味を考えていた。「皆試合に出たい中でサポートを率先してやってくれている。その、部員44人分の思いに報いるには、コートに出ている僕らが結果を出すしかない」。その結論を持って臨んだ決勝の結果はしかし、先述の通りだった。

取り組みの是非を証明するため、オールジャパンに立つ

 だからこそ、格上のJBLチームとの試合であっても、田上は目標以上に強い覚悟を持って臨むつもりだ。そもそも、歴代の慶應大のメンバーたちがどの試合にも真剣に取り組んできたのは、そうした日々の感謝を表すためでもある。その伝統をしっかりコートに置いて、下級生達にバトンタッチするのも4年生の役割だ。
「あきらめるかどうかは自分次第で、あきらめるのはすごく簡単です。でも僕はそういう人間、組織でありたくない。先輩方が代々受け継いできた伝統を崩すわけにももちろんいかない。その気持ちを姿勢で示すことが大事だと思うので、最後の1試合、1秒まで集中して自分たちのプレーをやっていきます」

 これまで、周囲から“考え過ぎ”と言われることがあっても「考えないわけにはいかない」と考え、「人が遊んでいるときに自主練をするのが差をつける道」と取り組んできたバスケット。慶應大の選手たちは、卒業後はそのバスケットの第一線から退く者が多い。田上もその1人だ。ということは、この大会はこれまでの取り組みの是非を証明する本当のラストチャンスとなる。
「今まで色々なものを二の次にしてきましたが、本当にバスケットを脇目も振らずやってきたんだという期間があってもいいんじゃないかと思うんです。これは僕の人生の第1章です」
自らは納得して次のステージへ向かい、後輩たちには来シーズンの糧にしてもらうために。無駄にできる時間は1秒もない。

<了>

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著者プロフィール

 1983年生まれ。バスケットボール男子日本代表を中心に、高校、大学からJBL・WJBL、ストリートや椅子バス、デフバスまで様々なカテゴリーのバスケットボールを取材。中学・高校バスケットボール(白夜書房)などの雑誌、「S−move」「JsportsPRESS」等のウェブ媒体で執筆。2009年末に有志でポータルサイト・「クラッチタイム」創設

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