八千代、帰って来たスーパーサブが3回戦へ導く=高校サッカー2回戦

平野貴也

八千代がはまった思わぬ落とし穴

旭川実―八千代 後半24分、決勝点となるゴールを決め駆けだす八千代・磯部(右)=市原 【共同】

 油断の一発に苦しんだ八千代(千葉)を“帰って来たスーパーサブ”が救った。大みそかに行われた1回戦で中津工・中津東(大分)に5−0で圧勝した八千代は、市原臨海競技場のバックスタンド半分をオレンジに染め上げた地元応援団の力強い声援と期待を背に受けて、2回戦のピッチに登場した。

 出だしからテンポの良いパスワークで主導権を握り快勝ムードが漂ったが、思わぬ落とし穴にはまった。5分、相手の旭川実(北海道)がFKから何気ないロングボールを八千代ゴール前へ送ると、GKとDFが相手と交錯。こぼれ球を拾った旭川実のMF阿部恭也がループ気味に放ったヘディングシュートは、八千代のDFがどうにか頭で触ったがコースを変えることはできず、そのままゴールへ吸い込まれた。

 失点後も試合のペースは八千代のものだったが、試合を支配しているものの負けているという苦々しい展開。砂金伸監督が「似たような(パス主体の)チームなのに(自陣に)引いてバキバキ(ロングボールを)蹴ってきたので、一発で僕のゲームプランは崩れた」と話したように、堅固なブロックを築く旭川実をなかなか崩し切れなかった。しかし、前半終了間際にエース石川誠也のヘディングがゴールバーに当たって跳ね返ったところをFW大和久弘樹が押し込んで同点。後半は旭川実も得点を狙って前に出てきたため、一進一退の攻防となった。

磯部がわずか1分で勝利の立役者に

 そこでヒーローになったのがベンチの切り札だった。63分に大和久に代わって投入されたFW磯部晃が、出場直後に司令塔・長澤和輝のスルーパスで抜け出すと、「覚えていないけど、たぶんファーストタッチ」というプレーでいきなりゴールを決めた。

 千葉県大会では、先発出場した準々決勝で「やったつもりはない」報復行為によるレッドカードを受けて退場。肝心の準決勝、決勝で出場停止となり、その間は練習で相手のFW役を演じるのが精いっぱいだった。医学部進学を目指し、宿泊先のホテルでも受験勉強に励んでいる努力家は、「途中出場は試合の入り方が難しいけど、今日はなぜかうまく準備ができてラッキーだった。みんなともう一度サッカーをしたかった。みんなの力で全国に連れて来てもらって、やっと恩返しができた」と話し安堵(あんど)の表情を浮かべた。

 厳しいゲームを勝ち切った貴重な決勝弾。わずか1分で勝利の立役者となったスーパーサブの活躍に、指揮官も「ラッキーボーイですね。報復行為をするような子じゃない。そう見えたのだから仕方がないけど。でも、出られなくなってもふてくされずにいい準備をしていた」とほおを緩ませた。

 初戦ではエースの石川がハットトリック、2回戦ではスーパーサブの磯部がヒーローとなった。八千代は翌3日の3回戦も地元・千葉の同会場に登場し、関西大学第一(大阪)と対戦する。試合を重ねるごとに勝負は厳しくなるが、魅惑のパスサッカーを見せるオレンジ軍団をベスト8へ導く新たなヒーローは誕生するだろうか。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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