男子初優勝の明成、5年目の結実=高校選抜バスケ

北村美夏
 延長戦、逆転に次ぐ逆転、シード校の敗退……と例年にも増して記憶に残る試合が多かった「JOMOウインターカップ2009」。男子の大会最終日には、最高のドラマが待っていた。決勝を戦った福岡第一(福岡)と明成(宮城)はこの2年間、主力のアクシデントやあと1歩結果を残せない悔しさを味わってきたが、逆境を乗り越えたチーム力のぶつかり合いの結果、明成が創部5年目にして初の、そして悲願の全国タイトルをつかんだ。

勝敗を決したのはラスト5分間の攻防

明成#10高田はラスト6分間で8得点。正確な技術に加え気持ちで決めたシュートだった 【(C)JBA】

 明成に初優勝をもたらしたのは、ラスト5分の爆発力に尽きる。準々決勝の延岡学園(宮崎)戦、準決勝の福岡大附大濠戦に続き、この決勝でも1点差で迎えた4ピリオドのラスト6分間を13−2と圧倒した。
 この展開は、佐藤久夫コーチが描いていたシナリオ通りだった。「うちは走り込んできたチームだから本当は走りたい。でも40分走り合いをしたらかなわないから、ラスト5分まで我慢しよう」。

 ただ、5連戦目となる決勝で、手ごわい相手に対し、しかも勝敗に直結するこの時間帯にきっちり力を出すのは容易ではない。それを可能にしたのは日々の積み重ねと、対応力だった。
 バスケットボールは“習慣のスポーツ”と言われる。佐藤コーチは「こういう場面ならこの選手がこう動く」というところまで具体的にイメージした練習を繰り返した。その結果、「今までの練習を思い出したら不思議と焦りが引いていった」(#4村田翔)と選手たちに勝負を恐れない強さが芽生えた。

 そしてその強さと、佐藤コーチが2005年の創部から掲げてきた“対応力”とが結びついたとき、明成は戴冠までの最後のステップを踏んだ。福岡第一の井手口孝コーチが「ゲームの流れのおそろしさ」と敗因に挙げた4ピリオド残り6分での1本のシュートが、明成のギアチェンジの合図となり、勝敗をも分けた。
 そのシュートとは、福岡第一がフリースローを落とした後の明成#10高田歳也の3点シュートだ。パスを受けると迷わず放った。速攻時の3点シュートはリスクが高いが、決められた方は、とりわけミスの後だとダメージも大きい。練習通りのプレーだけでない、まさに試合の流れや相手の状況を読んだ瞬時の判断だったのだ。

 明成バスケット部の2期生である石川海斗(現・日大)は、高校時代に優勝まであと1歩だった要因を「自分のシュート力不足も含め、勝負所での攻め方がうまくなかった」と振り返る。3期生がついにその課題を克服した。タイムアップの瞬間、#6畠山俊樹が駆け寄ったスタンドでは、卒業生たちが笑顔で拍手を送っていた。

チームの結束と成長が際立ったウインターカップ2009

福岡第一は#7園幸樹のファウルトラブルも響いたが、周囲のメンバーは一様にねぎらいの言葉をかけた 【(C)JBA】

 今年のウインターカップ男子は、試合ごと、また試合の中でも、メンバー同士が声を掛け合って気持ちの切れそうなところを持ちこたえたり、怒とうのチャージを仕掛けたりする場面が明成をはじめ多くのチームで見られた。

 3年連続準優勝に終わった福岡第一は、#8玉井勇気が「優勝したいという思いが1人1人強過ぎた」と言うように、「優勝」の2文字に逆に“らしさ”を奪われてしまった。だが、大会前、大会中と相次いだアクシデントも、キャプテンの#4山崎翔を中心にまとまって乗り越え、1年生の#11田中光と#12ゲエイ・エルハジ マリックのカバーによって決勝まで駒を進めたのは見事と言える。

 また、3年ぶり出場で3位入賞した福岡大附大濠(福岡)は、準々決勝の藤枝明誠(静岡)戦、準決勝の明成戦ともビハインドを追い上げ、意地を見せた。しかし、福岡大附大濠は逆転できず3位決定戦に回ったが、きっちり気持ちを切り替えて勝利。「僕たちにとっても、おそらく田中(国明コーチ)先生にとっても最後だから、絶対に勝って笑って終わりたかった」とは#7矢嶋瞭。表彰式の後には田中コーチを胴上げして感謝の意を表していた。

 明成の佐藤コーチは、決勝に臨むにあたって「今まで支えてくれた方に感謝できるようにやるだけ」と話したが、たとえ1回戦であってもそれは変わらない。努力してつかんだあこがれのコートで、長い時間をともに過ごしてきた仲間に恥じないプレー、指導してくれたコーチやスタッフへの恩返しとなるようなプレーをどのチームも選手も期しているからこそ、観る者の心を揺さぶるようなドラマが生まれる。それがウインターカップという舞台なのだ。

 <了>
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著者プロフィール

 1983年生まれ。バスケットボール男子日本代表を中心に、高校、大学からJBL・WJBL、ストリートや椅子バス、デフバスまで様々なカテゴリーのバスケットボールを取材。中学・高校バスケットボール(白夜書房)などの雑誌、「S−move」「JsportsPRESS」等のウェブ媒体で執筆。2009年末に有志でポータルサイト・「クラッチタイム」創設

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