男子初優勝の明成、5年目の結実=高校選抜バスケ
勝敗を決したのはラスト5分間の攻防
明成#10高田はラスト6分間で8得点。正確な技術に加え気持ちで決めたシュートだった 【(C)JBA】
この展開は、佐藤久夫コーチが描いていたシナリオ通りだった。「うちは走り込んできたチームだから本当は走りたい。でも40分走り合いをしたらかなわないから、ラスト5分まで我慢しよう」。
ただ、5連戦目となる決勝で、手ごわい相手に対し、しかも勝敗に直結するこの時間帯にきっちり力を出すのは容易ではない。それを可能にしたのは日々の積み重ねと、対応力だった。
バスケットボールは“習慣のスポーツ”と言われる。佐藤コーチは「こういう場面ならこの選手がこう動く」というところまで具体的にイメージした練習を繰り返した。その結果、「今までの練習を思い出したら不思議と焦りが引いていった」(#4村田翔)と選手たちに勝負を恐れない強さが芽生えた。
そしてその強さと、佐藤コーチが2005年の創部から掲げてきた“対応力”とが結びついたとき、明成は戴冠までの最後のステップを踏んだ。福岡第一の井手口孝コーチが「ゲームの流れのおそろしさ」と敗因に挙げた4ピリオド残り6分での1本のシュートが、明成のギアチェンジの合図となり、勝敗をも分けた。
そのシュートとは、福岡第一がフリースローを落とした後の明成#10高田歳也の3点シュートだ。パスを受けると迷わず放った。速攻時の3点シュートはリスクが高いが、決められた方は、とりわけミスの後だとダメージも大きい。練習通りのプレーだけでない、まさに試合の流れや相手の状況を読んだ瞬時の判断だったのだ。
明成バスケット部の2期生である石川海斗(現・日大)は、高校時代に優勝まであと1歩だった要因を「自分のシュート力不足も含め、勝負所での攻め方がうまくなかった」と振り返る。3期生がついにその課題を克服した。タイムアップの瞬間、#6畠山俊樹が駆け寄ったスタンドでは、卒業生たちが笑顔で拍手を送っていた。
チームの結束と成長が際立ったウインターカップ2009
福岡第一は#7園幸樹のファウルトラブルも響いたが、周囲のメンバーは一様にねぎらいの言葉をかけた 【(C)JBA】
3年連続準優勝に終わった福岡第一は、#8玉井勇気が「優勝したいという思いが1人1人強過ぎた」と言うように、「優勝」の2文字に逆に“らしさ”を奪われてしまった。だが、大会前、大会中と相次いだアクシデントも、キャプテンの#4山崎翔を中心にまとまって乗り越え、1年生の#11田中光と#12ゲエイ・エルハジ マリックのカバーによって決勝まで駒を進めたのは見事と言える。
また、3年ぶり出場で3位入賞した福岡大附大濠(福岡)は、準々決勝の藤枝明誠(静岡)戦、準決勝の明成戦ともビハインドを追い上げ、意地を見せた。しかし、福岡大附大濠は逆転できず3位決定戦に回ったが、きっちり気持ちを切り替えて勝利。「僕たちにとっても、おそらく田中(国明コーチ)先生にとっても最後だから、絶対に勝って笑って終わりたかった」とは#7矢嶋瞭。表彰式の後には田中コーチを胴上げして感謝の意を表していた。
明成の佐藤コーチは、決勝に臨むにあたって「今まで支えてくれた方に感謝できるようにやるだけ」と話したが、たとえ1回戦であってもそれは変わらない。努力してつかんだあこがれのコートで、長い時間をともに過ごしてきた仲間に恥じないプレー、指導してくれたコーチやスタッフへの恩返しとなるようなプレーをどのチームも選手も期しているからこそ、観る者の心を揺さぶるようなドラマが生まれる。それがウインターカップという舞台なのだ。
<了>
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