南米王者エストゥディアンテス、3度目の“奇跡”を=クラブW杯

苦しみながらつかんだ南米王者の栄冠

09年コパ・リベルタドーレスMVPに輝き、笑顔を見せるベロン 【Photo:ロイター/アフロ】

 エストゥディアンテスの栄冠までの軌跡を振り返ると、インテリジェンスと経験溢れる司令塔・ベロンの存在抜きには語れない。90年代半ばにエストゥディアンテスでキャリアをスタートしたベロンはその後、ボカ、サンプドリア、パルマ、ラツィオ、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、インテルとクラブを渡り歩き、06年に古巣へと戻ってきた。そこからクラブの躍進が始まったのは、先に述べた通りだ。そして、エストゥディアンテスでの活躍が認められ、ベロンはアルゼンチン代表に再び名を連ねるようになった。

 エストゥディアンテスの09年コパ・リベルタドーレス優勝への道のりは簡単ではなかった。予選からスタートし、ブラジルのクルゼイロ、エクアドルのデポルティボ・キト、ボリビアのウニベルシタリオ・デ・スクレと同居したグループリーグでは、苦しみながらクルゼイロに次ぐ2位で通過した。準々決勝のデフェンソール・スポルティング(ウルグアイ)、準決勝のナシオナル・モンテビデオ(ウルグアイ)は危なげなく退けたが、決勝では再びクルゼイロとまみえ、ホームでの第1戦を0−0で終えた。この時点で、エストゥディアンテスの不利は明らかだった。実際、アウエーでの第2戦で1点のビハインドを背負い、形勢はますますクルゼイロ有利に傾いた。だが、そこからが神秘的なクラブの真骨頂。ガストン・フェルナンデスとマウロ・ボセッリがゴールを決め、敵地ベロオリゾンテで2−1と試合をひっくり返した。

 この3年間、エストゥディアンテスは多くの主力選手を失ってきた。アルゼンチンのほとんどのクラブがそうであるように、選手を売却することで資金を得なければならないからだ。例えば、FWパブロ・ピアッティ(アルメリア/スペイン)、FWマリアーノ・パボーネ(ベティス/スペイン)、GKマリアーノ・アンドゥハル(カターニア/イタリア)、そしてG・フェルナンデス(彼の場合は、メキシコのティグレスからの期限付き移籍だったため、古巣に戻った)といった選手たちだ。
 また、アルゼンチン代表の右サイドバック、マルコス・アンヘレリは負傷のため離脱中、ホセ・ルイス・カルデロンは近ごろ引退した。それでも、監督のサベージャはマーケットを注意深く観察して効果的な補強を都度行っているし、下部組織がしっかりしていることもクラブを助けている。

チーム全体をつかさどるベロンの存在

 エストゥディアンテスのシステムは4−4−2。守護神のダミアン・アルビルはトップチームでの出場経験は決して多くはないが、守備能力の高いGKだ。09年6月にアンドゥハルが移籍したことで定位置をつかんだ。また、センターバックのレアンドロ・デサバト、右サイドバックのクレメンテ・ロドリゲス(ボカでも南米チャンピオンになっている)、左サイドバックのヘルマン・レらで構成する守備陣は安定感がある。

 基本的な中盤のフォーメーションは、右にエンツォ・ペレス、左にレアンドロ・ベニテスと、テクニックの高い2人が両翼に並ぶ。ボランチの位置にはロドリゴ・ブラーニャと、、チーム全体のプレーをつかさどるベロン。エストゥディアンテスで復活を遂げた“ブルヒータ”(小さな魔法使い=ベロンの愛称)はコパ・リベルタドーレスでも大会MVPに輝いた。
 FWは2枚。マウロ・ボセッリはボカで長らくマルティン・パレルモの控えに甘んじてきたが、08年にエストゥディアンテスに加入すると主力として定着した。もう1人はウルグアイ人のファン・マヌエル・サルゲイロである。

 エストゥディアンテスは各ポジションにキーマンがそろい、バランスの取れたチームである。だが極論を言えば、誰がこの赤と白の縦じまのユニホームをまとっているかは関係ない。このチームには“奇跡”を起こす何かが存在しているのだ。68年のオールド・トラフォード、09年のベロオリゾンテで見られたように。

<了>

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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