メッシ、バロンドール受賞もひとつの通過点=ゴールネットを揺らすたびに伝説へ
現代サッカー界の頂点に君臨する小さなFW
2009年バロンドールを受賞したバルセロナのメッシ。2位のC・ロナウドに200ポイント以上の大差をつけた 【Getty Images】
しかし、ほかならぬC・ロナウドが受賞前から証言していたのである。
「メッシのパフォーマンスは本当に素晴らしい。今年は彼が取るべき賞だろう」
小さな体のアルゼンチン人FWが現代サッカー界の頂点に君臨していることは、もはや疑いようがない。
これから数日間はあらためて、マスコミやファンがメッシのプレーの魅力が語り尽くすだろう。多彩なボールテクニック、緩急差の大きなドリブル、それらは衝撃的だ。しかし、それらは手段であり、方法にすぎない。「ゴール」という結果、サッカーで最も歓喜を与える瞬間を作り出せることが、彼を真のスターたらしめているのではないか。
真骨頂は右サイドから切り込むドリブル
プロ入団3年目の2006−07シーズンは14得点(リーグ戦)を記録した。07−08シーズンはチームの不振に引きずられて10得点に終わったものの、08−09シーズンは攻撃的なポジションはどこでもこなす精力的なプレーで23得点を挙げ、得点ランキングは4位。スペイン国王杯では6得点、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)でも9得点と、いずれも得点王に輝いている。そして今シーズンも、リーグ戦では第12節までで7得点。今や22歳とは思えない風格が漂っている。
「ピッチでのプレッシャー? そんなものは僕は感じない。サッカーをできることが何よりの幸せなんだからね。ボールを受け、ドリブルをしてゴールを目指す……そのときに“自分は生きている”って実感できるんだ」
メッシは少し甲高い声で言うが、大げさに言えば、彼はゴールを取るという形で生きざまを伝える選手である。ポジション的にはゴールゲッターというタイプではないにもかかわらず、得点への執着は命がほとばしるほどに凄まじい。小さな体を躍動させ、ネットを揺らすために全力をなげうつ姿には、見る者の心を揺り動かす“何か”がある。
彼の真骨頂と言えるプレーのひとつに、右サイドから左中央にドリブルで切り込み、シュートする形があるが、そのときに見せる気迫は、対戦したDFいわく、「火の玉かと思った」と驚がくするほどだという。DFたちはドリブル突破を十分に予期しながらも、何もできずにほうけて立ちつくし、もしくは混乱したまま力ずくで止めてPKを献上し、天を仰ぐしかない。
メッシはボールを餌のようにわざと晒し、食いついてきた瞬間に抜き去るが、その様子は剣術における、相手が自分の間合いに飛び込んできたときに切り捨てる、「居合い抜き」で斬る感覚に似ている。“相手の太刀筋を見極める眼”と“するりと抜き放つ太刀さばき”が神業的なのである。ゴールへと切り込んでいく小さな体には、得体の知れない者が憑依(ひょうい)しているようにも映る。