「木村頼み」の脆さを露呈=女子バレー・グラチャン女子総括

田中夕子

ドミニカ戦後、涙を見せた木村(右)。攻守に奮闘も、唇をかみしめてコートを引き上げた 【坂本清】

 バレーボールのワールドグランドチャンピオンズカップ(以下、グラチャン)の女子大会が11月10日〜15日、東京体育館、マリンメッセ福岡で行われ、日本は総合成績を2勝3敗とし、全体の4位で大会を終えた。

「木村頼み」となった日本

 一番大事なところで、脆(もろ)さが露呈した。
 5試合のみの短期決戦。どれも負けられない試合とはいえ、中には絶対に負けてはならない試合がある。主将の荒木絵里香(東レ)が発した言葉に、それが集約されていた。
「ドミニカ戦が、すべてでした」

 メダルを狙うと言いつつも、大会前、最大のターゲットは、第3戦で対するタイだった。
 9月のアジア選手権で敗れ、チャンピオンの座を献上した。まずはアジアで勝たねばならない。過度なプレッシャーがかかるなかで、奮起したのが木村沙織(東レ)だった。
 巧みなコンビバレーで力をつけてきたタイを前に、“天才”と呼ぶにふさわしいテクニックを見せつけ、50%のスパイク決定率を記録。スパイクの13得点は、チーム全体の3割を占めた。サーブ、ブロック、サーブレシーブといった数字で示される貢献度はもちろん、つなぎの精度や、要所での判断など、データで表せない範囲まで如何(いかん)なく存在感を発揮した。左ひざ痛で戦列を離れた栗原恵(パイオニア)の不在を感じさせない木村の活躍に、会場は大いに沸いた。
 しかし冷静にデータを見れば、3人の選手がバランスよく攻撃を仕掛けているタイに比べて、日本は木村の数字が突出していた。「木村頼み」になっていたのは明らかだった。
 木村が崩れたら、すべて崩れるのではないか。
 予感は現実となり、ドミニカ戦で脆さは露呈した。

栗原離脱の影響と木村の涙

木村は、「何もできなかった」とドミニカ戦を振り返った 【坂本清】

 本来は栗原、木村、山口舞(岡山)、佐野優子(久光製薬)の4人でサーブレシーブの布陣を組むが、栗原が離脱したことにより、従来のパターンは展開できなくなり、木村、佐野の2人でサーブレシーブを返さねばならない。「個人の調子が問題ではなく、チーム全体としてサーブカットを返すという課題を克服できなかった」と佐野が振り返ったように、序盤から、警戒していたはずのジャンプサーブに押され、コンビを組むまで至らない。面白いように得点を重ねていくドミニカと裏腹に、普段は簡単に拾えるはずのボールに対応が遅れ、焦りが生じた結果、サーブミスやスパイクミスを連発する。
 タイ戦ではあれほど活躍した木村が、ドミニカ戦では全くいいところが出せずに終わったのも日本にとっては手痛い誤算だった。木村の真骨頂ともいうべき、相手ブロックをうまく使ったプッシュボールやブロックアウトを狙った巧みなスパイクも、打つ瞬間に手首の角度やミートポイントを変えるスパイクも、すべてドミニカのブロックに阻まれた。
「リズムもないし、攻撃も単調になってしまった。全部、守りから入って後から手を打つだけ。走り回ることも、速さもない。悔しいと思うところまでもいかずに、気付いたら終わってしまったという感じです」
 完膚なきままにたたきのめされた後、選手たちが足早に記者が待つミックスゾーンを立ち去る中、木村は目を潤ませながらも気丈に記者からの問いに応じた。
「全然決まらなかったし、何もできませんでした。メダルがかかっていたのに、もったいない試合をしてしまいました」
 自分のせいで負けた。ふかいなさと情けなさが込み上げ、思わず涙がこぼれた。

真鍋ジャパン、今後の方向性

 今大会の位置付けは難しい。出場するのは各大陸の王者だが、ヨーロッパを制したイタリア、北中米を制したドミニカは、ともにこれが初めてのグラチャン出場であり、勢力図が変遷しつつあることが示されつつある。
 しかし、現在の全日本で最も豊富なキャリアを持つ竹下佳江(JT)が「オリンピック翌年は、選手の出入りも激しいので、一概に『ここが変わった』とは言いにくい。始まりでもあるし、終わりでもある。すごく、微妙なんです」と言うように、3年後の五輪をゴールととらえるのであれば、今はまだ、チームの形を固める時期には程遠い。
 裏を返すならば。だからこそドミニカには負けてはならなかった。6カ国中3カ国が手にするメダルを獲得できなかったことよりも、身体能力と潜在能力を持った相手に「相手のホームで勝った」と自信を与えてしまったことが、どれほどの痛手か。その意味を知ったうえでの強化がなされなければ、現状の打破は実に厳しい。

 就任1年目の今季、真鍋政義監督は新生JAPANに対し、テーマを「世界を知る」と掲げた。今後、日本が目指すべきスタイルの構築とは――。
「まずは個人がレベルアップを図る。スピードはトップクラスまで近づいていると感じられたので、速さプラス精密さを追求する。ミスを減らさなければ、世界のトップに勝つことはできません。現在のメンバーをベースに、V・プレミアリーグや海外でプレーする選手を含め、より多くの選手を視察してまた新たな方向性を考えていきたい」
 終わりは、新たなステージへ到達するための始まりでもある。
「ドミニカ戦が、すべてだった」
 マイナスの意味を、プラスに変えるために。取り組むべき課題は、山のように積まれている。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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