補欠から這い上がった“ドライチ”=千葉ロッテ1位・荻野貴司の歩み
「予想外の1位指名でいじられました」
千葉ロッテは今ドラフトの目玉・菊池雄星(花巻東高−埼玉西武1位指名)への入札を直前で回避し、トヨタ自動車の荻野貴司外野手をドラフト1位で指名した。
荻野の1位指名を決めたのは新監督・西村徳文の「俊足の即戦力外野手がほしい」という意向によるものが大きかった。すでに指名あいさつで、足を運んでくれた球団社長とスカウトからもそのような説明を受けている。
「プロで自分がどれだけ通用するのか、自分自身に対する大きな期待でいっぱい。自分の力を試したい」
いつも生真面目で控え目な荻野だが、社会人野球を経験したことで実に逞しくなった。プロに向けての力強い言葉を聞いて、驚いた以上に、大学野球部の先輩でもある筆者はうれしく思ったものである。
大学3年から飛躍的に伸びたスピード
荻野の一番の持ち味は俊足。関西学院大4年春にはリーグ記録を更新する17盗塁をマークした 【島尻譲】
「体も小さかったです。中学生くらいだと体力差も顕著に出ますし。このころは将来的には、野球は好きなだけで終わりなのかな、と。ズーッと続けるなんて夢にも思っていなかったです」
しかし、努力とキャリアを重ねることで、荻野は着実に成長。奈良の強豪・郡山高でレギュラーをつかみ、関西学院大では通算98安打。100安打にはわずかに届かなかったものの、ベストナイン(遊撃手)を5回獲得した。4年春には関西学生リーグ記録を大幅に上回る1シーズン最多17盗塁をマークした。
この記録からも分かるように、荻野の最大の武器はスピード。
「50メートル走は6秒切るくらいなんですけど」というコメントだけでは際立っているように思えないのだが、とにかくトップスピードへのギアチェンジが速い。打球を放ってから2歩目で疾風のごとくダイヤモンドを駆ける。「20メートル直線を走らせたら、日本で一番」とネット裏のスカウト陣も驚愕するダイナミックなそのスピードは、味方には心強く、敵には心憎く、見る者の心を躍らせる。
快足が目立ち始めたのは大学3年生くらいから。2本の2リットルのペットボトルに砂を満タンに詰め、それを両脇に抱えながらサーキットトレーニングを繰り返すという原始的とも呼べる練習で飛躍的にスピードは増した。
筆者もこの練習を何度か目の当たりにしたが、ここで大事だったのは荻野の意識だったと思う。チームの野手全体に課せられた練習であり、大半の選手がこの苦しい練習をいかに乗り切るかということを考えていたに違いない。だが、荻野は一心に渇望した。速くなりたい――強くなりたい――うまくなりたい――既に大学ではレギュラーの座を獲得していたが、中学時代は補欠選手だった。その悔しい経験が荻野を奮い立たせ、真面目に積み重ねる努力は無駄にならないことを覚えさせた。