試行錯誤で成長する左腕――立命大・藤原正典=ドラフト注目選手
左腕として上位指名の有力候補
大学屈指の左腕・藤原は、まだまだ伸びる“ノビシロ”も大きな魅力 【島尻譲】
藤原という投手をひと言で表すならば、「キレと角度で勝負できる左腕」。しかし、正直なところ、これが最もふさわしいかどうか……。それは関西学生リーグでノーヒットノーランを記録した立命大の先輩・金刃憲人(現巨人)や、近大時代に全国大会で奪三振の山を築いた大隣憲司(現福岡ソフトバンク)のような圧倒的な印象を感じさせるわけではないからだ。記録的観点では3年生春のシーズンに3戦連続完封勝利を飾っているのがお見事とはいえ、リーグ戦通算16勝(最終節の同大戦を残して)は抜きん出た成績とは言い難い。そんな状況であるのに、彼が注目されるのはなぜなのだろうか?
藤原が候補リストから消えない理由
このように飛ぶ鳥を落とす勢いだったが、今春のゴールデンウィーク前に失速してしまう。季節外れの寒風が吹きすさぶ関西学大戦での完封勝利と引き換えに、左肩の炎症で以降のリーグ戦登板を回避する羽目になってしまったのである。これによりネット裏に陣取るスカウト陣の評価もややトーンダウンしてしまった。それでも、藤原の名がドラフト候補リストから消えないのには理由があった。藤原は試行錯誤で適応力を磨いてきた投手で、その部分が評価されているからだ。
藤原は度々、マイナーチェンジを見せる。試合毎に変わるというのは大げさだが、課題と目的を明確にしたうえで投法をチョイスしている。力強さを求める時はワインドアップ、間合いをつくることを重視する時はノーワインドアップ、シュート回転を修正する時はセットポジションといった具合にだ。
これに伴い、腕の高さや、ステップも若干変わる。もちろん、球筋にも微妙な変化が生まれる。このような工夫を試合後に聞くのは非常に面白く、藤原の向上心を再認識させられる瞬間で、次はどのような意図を持ち、新しい一面を見せてくれるかという楽しみも増える。決して完成形ではなく、カメレオンのように色を変えつつも、さらに伸びる可能性を秘めた素材だというのが藤原の魅力であり、注目される理由のように思える。
今秋は左肩も癒え、リーグ戦の正念場であった近大戦でも2戦連続で先発のマウンドに上がるなど最後の巻き返しを見せている。基本的に無走者時はノーワインドアップで、グラブをはめた右手が上がり過ぎることなく、悪癖の一つだったテークバックの入り過ぎも解消。トップの位置も少し高くなったことで体の回転が良くなっただけでなく、打者の様子をうかがいながら意識的にシュート回転させる術なども身に付け始めている。そして、何よりも悠然とした態度とフォームで投げられるようになった。
「これまでは1500ccの車でアクセルをベタ踏みしていました。まあ、ようやく2000ccくらいの排気量で強弱をつけられるレベルになりましたね。あとは将来的に排気量を徐々にアップできれば」と、藤原の成長を支えてきた立命大の松岡憲次監督が語るのに対して、「以前の方が迫力があって恐かった」(榎本保監督/近大)という声もあるのは興味深いところだ。
「ゆったり投げられるようになっているのは収穫。でも、もともとガムシャラに投げるタイプ。いい意味で気持ちは暴れていたい。そういう投球を目指したいです」と、意気込む藤原の試行錯誤はこれからの野球人生でまだまだ続き、適応力はもっともっと磨かれていくことだろう。
<了>
1988年1月14日生まれ。181センチ、77キロ。左投げ左打ち。岐阜県揖斐郡出身。県岐阜商高−立命大。小4から養基野球少年団(軟式)で野球を始める。中学時代はボーイズリーグ・西濃ボーイズ(硬式)に在籍。高2夏、背番号11で甲子園の土を踏むが、出場機会はなくチームは初戦敗退した。大学3年秋に明治神宮大会に出場してベスト4入りに貢献。リーグ戦通算16勝(10月20日現在)で、最速は146キロ。球種はカーブ、スライダー、チェンジアップ、フォーク。高校時代には4番も任された打撃センスを持つ。本塁打こそないが、たくみな打撃の評価も高い。(関西学生リーグはDH制なし)
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