イブラヒモビッチ“巨人はいかに融合したか”

豊福晋

驚異的なスピードでチームになじんだイブラヒモビッチ

イブラヒモビッチ(右上)は開幕から5試合連続ゴールと、いきなりチームにフィットしている 【Getty Images】

 目下にカンプ・ノウを見渡せるバルセロナの高級ホテル、プリンセサ・ソフィア――。ズラタン・イブラヒモビッチは現在、この五つ星ホテルに住んでいる。
 アムステルダム、ミラノとクラブを共にしてきた親友マクスウェルは、素敵な家を見つけてさっさと出ていってしまった。今このホテルに滞在するチームメートは、ウクライナからやってきたチグリンスキーだけだ。
 バルセロナに加入する新選手は同ホテルに滞在するのが恒例となっている。例えば昨季加入したダニエウ・アウベスもそうだった。
「移籍したばかりですべての面でいろいろと準備もしなければならないのに、イブラヒモビッチの適応ぶりには驚かされたよ。すぐにチームにも、バルサのプレースタイルにも溶け込んだ」
 感心するのはアウベスだけではない。このスウェーデン人の適応には誰もが目を見開いた。
「素晴らしい選手とは知っていたけど、こんなに早いとは」(シャビ)
「昔からチームにいるみたいだ」(ヤヤ・トゥーレ)
「イブラとの連係は良くなるばかり」(メッシ)

 周囲には“こんなに好調ならずっとあのホテルにいればいいのに”なんて声もある。リーガ開幕から5戦連続ゴール。クラブの長き歴史をひも解いても、これに並ぶ数字を記録したのは、1950−1951シーズンのセサルだけだ。
 地元紙を開けばピッチで躍動する彼の写真。ラジオに耳を傾ければ、いかに彼が素晴らしいのかをコメンテーターが何やら熱心に語っている。開幕から数週間、イブラヒモビッチはこのバルセロナという街で最も注目を集めた選手だった。
 その能力を疑う人はいなかった。しかし昨季3冠を達成したチーム、いわば完成された組織の中でプレーシステムを理解し、結果を出すにはしばらく時間がかかる――。それが大半の見方だった。

インテルとバルセロナのプレースタイルの違い

 前所属のインテルとバルセロナが全く違う種のサッカーをしているという点も、そんな見方を助長していた。
 昨季、この2チームのスタイルはほぼ対極にあった。イブラヒモビッチ自身もその違いを次のように語っている。
「インテルは限られた数人の選手に頼ることが多かったが、バルサは1人だけじゃなく、多くの選手が決定的なプレーをすることができる」

 昨季のチャンピオンズリーグ(CL)、決勝トーナメント1回戦のインテル対マンチェスター・ユナイテッド戦のこと。あまりにイブラヒモビッチという個に頼ったインテルの戦いぶりに英国メディアは一斉に「イブラヒモビッチだけのチーム」と酷評した。これまでの数年間、インテルとはイブラヒモビッチであり、彼こそがインテルだった。
 しかしイブラヒモビッチはそんな自分がすべての中心であったサッカーに別れを告げ、自分が生き、そしてほかを生かす、そんなスタイルにバルセロナで巡り合った。

 5得点という結果ばかりが目に付くが、特筆すべきは彼のアシスト面での貢献だ。今季のチーム内でのアシスト数はシャビ、メッシと並び4(CLのディナモ・キエフ戦、得点者:ペドロ、欧州スーパーカップのシャクタル・ドネツク戦、得点者:メッシ、ヘタフェ戦、得点者:メッシ、ラシン戦、得点者:ピケ)にも上る。

 インテル時代のように後方からロングボールを受け、独力で次の展開へとつなげるプレーは影を潜め、メッシ、シャビらとの連動による崩しが増えた。単独ではなく、使い、使われる関係を早くも築き上げたことは、彼の融合の鍵の一つだった。

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著者プロフィール

ライター、翻訳家。1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経てライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み現在はバルセロナ在住。5カ国語を駆使しサッカーとその周辺を取材し、『スポーツグラフィック・ナンバー』(文藝春秋)など多数の媒体に執筆、翻訳。近著『欧州 旅するフットボール』(双葉社)がサッカー本大賞2020を受賞。

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