レッドソックスの敗退から学ぶ

カルロス山崎

絶体絶命の中でムードを盛り上げるも

レッドソックスの地区シリーズ敗退が決まり、暗い表情でダッグアウトを去る守護神パペルボン 【Getty Images】

 10月11日午前11時30分(現地時間)。

 空気の冷たさを忘れさせてくれる、見事な青空が広がったフェンウェイ・パークで、1997年頃にはやったプロペラヘッズの“History Repeating”がかかっていた。

 エンゼルスに対して0勝2敗。

 試合開始まであと40分程。まさに崖っぷちに立たされたレッドソックスに追い風となるよう、球場スタッフが選んだこん身の1曲だ。

 歴史は繰り返されるのか。

 レッドソックスは過去のポストシーズンで4度、エリミネーションゲーム(王手をかけられた試合)からの逆転劇を収めている。例えば2004年のアメリカンリーグ地区シリーズは3連敗のあと4連勝でヤンキースを退け、結局、86年ぶりの世界一に輝いた。

 曲は、ビートルズの“A Day In The Life”に変わり、そういった過去の映像を編集したビデオがフェンウェイ・パークに映し出された。

崩れた守護神がメディアに見せた顔

 しかし――。

 その5時間後、レッドソックスのクラブハウスは通夜のように静まり返っていた。耳に入ってきた音といえば、奥から聞こえてくるシャワーの音と、天井からの空調の音。プレーオフ全試合でマスクを被ったビクター・マルティネスは、ロッカー前で頭を垂れ、固まっていた。恐らく、最終回の悔まれるシーンが頭の中で繰り返し流れていたのだろう。

 2点を追う最終回エンゼルスの攻撃、2死走者なし。しかも、左打席のエリック・アイバーは2ストライクと追い込まれていた。ここから先に起こったことについて、守護神ジョナサン・パペルボンは的確に振り返ることができなかったが、クラブハウスで彼を幾十にも取り巻いていたメディアに向けて、次のように話し始めた。

「この敗戦は、プレーオフのどの敗戦よりもこたえている。腰を落ち着かせて、分析することができないくらい、(この負けは)悔まれる」

 通算151セーブ、プレーオフでも通算7セーブを挙げているとはいえ、28歳の右腕はさすがに落ち込んでいたが、メディアの質問にはしっかりと受け答えていた。

「調子は良かったと思う。だが、大事なところでしっかり制球することができなかった。僕の仕事は試合を締めること。だけど、事はあれよあれよと起こってしまい、僕はというと、出血を止める事ができなかった」

最終戦の“どんでん返し”を振り返る

 ここで、レッドソックスにとっての悲劇、エンゼルスにとっての劇的なプレーを振り返ってみたいと思う。

 9回表、エンゼルスは2死からアイバーがセンター前ヒットで出塁。マルティネスは内角にミットを構えていたが、パペルボンの3球目は外角へ。勝負を急いでしまったようにも映った。その後、ショーン・フィギンスは粘った末に四球で出塁。これで2死一、二塁。フェンウェイ・パークには嫌な空気が漂い始めていた。

 ボビー・アブレイユに対して、パペルボンはカウント2ストライク1ボールと追い込んだ。ここでマルティネスが内角低めを要求したが、5球目は「レフト方向を意識していた」というアブレイユの待っていた外角高めのストレート。打球はグリーンモンスターのスコアボード直撃の二塁打となり、1点差に。

 このとき、レッドソックスに守備の乱れがあった。打球を処理したジェイソン・ベイ左翼手の送球は、カットに入ったアレックス・ゴンザレス遊撃手の頭上を越え、ホームへ転々としていった。これは、一塁走者フィギンスの足を意識したプレーだったと思われるが、フィギンスといえども、左翼の狭いフェンウェイ・パークで一塁からの生還は厳しい当たり。しかもアブレイユはダスティン・ペドロイア二塁手が二塁ベースを通り越し、ゴンザレスのカバーに入ったのを見て、悠々と二塁に到達。普段通りの中継プレーをしていれば、2死一、三塁という、違った局面になっていただろう。

 続くトリー・ハンターを敬遠四球で歩かせ、2死満塁に。レッドソックスはブラディミール・ゲレーロとの勝負を選択したが、ゲレーロは初球、低めのストレートをあっさりとセンター前に弾き返す2点タイムリーヒットを放ち、試合がひっくり返ったのだった。

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著者プロフィール

大阪府高槻市出身。これまでにNACK5、FM802、ZIP-FM、J-WAVE、α-station、文化放送、MBSラジオなどで番組制作を担当。現在は米東海岸を拠点に、スポーツ・ラジオ・リポーター、ライターとして、レッドソックス、ヤンキースをはじめとするMLBや、NFL、NHLなどの取材活動を行っている

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