男子の優勝候補筆頭は内村、女子は鶴見に期待=世界体操見どころ
個人総合王者への期待がかかる内村。惜しくも銀メダルに終わった昨年の北京五輪のリベンジを誓う 【Photo:北村大樹/アフロスポーツ】
新しいルールの下で行われる大会
大会では個人総合と種目別の予選と決勝をそれぞれ行い、男子7種目(総合、ゆか、あん馬、つり輪、跳馬、平行棒、鉄棒)、女子5種目(総合、跳馬、段違い平行棒、平均台、ゆか)のタイトルを争う。各国は最大男子6名、女子4名の選手を派遣し、1種目の予選に1カ国3名までが出場できる。ただし、決勝に進出できるのは1カ国2名までとなっている。
日本男子は今年の全日本選手権王者である内村航平(日体大)と、同2位の田中和仁(徳洲会体操クラブ)を個人総合でエントリーする予定。そして、ほかの4名を各種目に残る1枠に割り当てる。それぞれ、沖口誠(KONAMI)がゆか、関口栄一(KONAMI)が跳馬、坂本功貴(セントラルスポーツ)があん馬、そして中瀬卓也(徳洲会体操クラブ)がつり輪、平行棒、鉄棒の出場を予定している。
内村、個人総合王者へ視界良好
内村の強さは何か。それは、彼自身の卓越した体操感覚(身体を操る能力)を最大限に生かし、全種目において難しい技を、もっとも身体に負担をかけない動きで実施する能力の高さにあると考える。その能力の高さを感じる技の一つに、平行棒の『前方開脚5/4宙返り腕支持(D難度)』がある。この技はバーを受けるときの衝撃から俗称『バクダン』と言われているが、内村は誰よりも無駄なく、その衝撃を最小限に食い止めている(ように見える)。このように、体に負担をかけない“省エネ技術”は、得点が青天井となった現在のルールに必要不可欠。まさにその能力の高さが内村のよさだ。
加えて、内村の体操に対する取り組みの変化もその強さを引き上げた。高校生で出場した2006年の全日本選手権。ゆかで当時としては最高レベルの演技構成を3日間、すべて変えて行う離れ業を見せたが、そこには「どんな技でもできる」という彼の器用さに対するアピールがあった。しかし、たった一度しか演技できない競技の世界において、その表現はマイナスに働くことが多い。実際、北京五輪種目別のゆかで予想外のミスによりメダルを逃した。
どんなときでも最高の演技をするために必要なこと――それは、演技全体の完成度を高める以外に方法はない。今の内村の実力を持ってすれば、バラエティーに富んだもっと高難度の演技を構成することができるであろう。しかし今、完成度の向上に集中することによって、全種目を通じてバランスがとてもよく、個人総合タイトル争いの先頭走者になったことに疑いはない。
なお、内村の対抗はファビアン・ハンブッヘン(ドイツ)が筆頭。ついで、日本の田中、フラビウシュ・コクジ(ルーマニア)、ジョナサン・ホートン(米国)、ダニエル・キーティングス(英国)、ユーリ・リャザノフ(ロシア)あたりが上位の取りこぼしを狙っている。現段階で中国と韓国は、個人総合へのエントリーはなし。世界選手権や五輪の予選でもなく、団体総合もない世界選手権だからできる取り組みだが、両国ともに個人総合選手の育成には手を焼いているようだ。