現場責任者・渕正信が語る四天王プロレスの深層
【(C)原悦生/Gスピリッツ】
【(C)原悦生/Gスピリッツ】
やっぱり誰もが言うように、受け身が素晴らしいよね。あとは反射神経。それと技を食った後の立ち位置ね。三沢はすぐに自分のポジションを取って、次の展開に入れるんだよ。レフェリーの目や、それこそ自分の背中にいる観客も意識して、全体的なことを考えて試合ができる選手だよね。
――よく三沢さんは受け身が巧いと言われますけど、具体的にはどう巧いんですか?
あのね、彼は首で取るんだよ。
――えっ、首ですか!?
正確には首筋の下ね。昔のレスラーは、スラムでも何でも背中で受けてたんだけど、それが三沢はジャーマンでもバックドロップでも、(首筋の下を指さして)ここで受けてたんだよね。俺もプロレス人生長いけど、首で受け身を取ったのは2回ぐらいしかないと思う。ウイリアムスとやった時に1回、鶴田さんとやった時に1回ね。
――しかし、それで衝撃を和らげることができるんですか?
ここをクッションにするから、頭をモロに打つよりいいんじゃないかな。三沢のここは本当に柔らかかったからね。それに自分から回転して、力を逃していたんだろうし。
【(C)神谷繁美/Gスピリッツ】
それはね、俺も心配した。四天王だけじゃなくて、ウイリアムスのバックドロップとかね。その頃になると、(大技が)2発も3発も決まらないと決着がつかない感じだったし、どこかで歯止めを掛けなきゃという気持ちはあったよ。たださ、俺もそうだけど、馬場さんも“こいつらなら大丈夫だ”っていう信頼感はあったと思う。
――今振り返ってみて、彼らは何故あそこまで激しい試合をしたんだと思います?
それはプロレスラーの性というかさ……まあ、ファンは彼らのファイトを観て驚いてたけど、試合をしてる自分たちの中では、新鮮な驚きが無くなっていたんだろうね。現状に満足しないで、常に“上を、上を”っていう部分が凄くあったと思う。
――四天王プロレスの誕生によって、“大技の連発、頭から落とすプロレスが主流になってしまった”という批判的な声もありますが、渕さんはどう捉えています?
俺はね、四天王プロレスを『頭から落とすプロレス』と一言で片づけられたら心外だよ。それは確かに一つの要素なんだけど、そこに行くまでの本当の四天王プロレスっていうのは、一つの技を大切にして、観客の喜びとか昂揚感とか様々な感情を呼び起こすプロレスであって、それを出来る人間たちがああいう試合をやってたわけだよ。頭から落とす云々というのは、それも一つの驚きとして見せるんだけど、そこに至るまでのドキドキ感は基本的な技で見せているわけだし、そこには間合いもあるわけだからさ。
それを上っ面の見様見真似でさ、大技をバンバンやるだけのプロレスを指して、“このベースになっているのは四天王プロレスです”って言われたから、それは違うよと。四天王の試合はプロレスからお客さんを惹きつけていたし、頭から落とすのは、その一部でしかない。それが全てだとは思われたから、とんでもないよ。それに四天王の間には、確かな技術に裏打ちされた信頼感があったわけだから。それこそさ、ただ大技をやるだけなら、運動神経がいいインディーの小さいコたちの方が凄いかもしれないよ。
※この文章は『Gスピリッツvol.13』(9月30日発売)に掲載されているインタビューの一部を再編集したものです。本誌では、ジャンボ鶴田vs.天龍源一郎の鶴龍対決まで遡り、四天王プロレスの成り立ち、三沢と川田のスタイルの違い、必殺技に隠された意外な真実などについても語っています。
プロレス専門誌「Gスピリッツ」vol.13
【(C)Gスピリッツ】
■総力特集 三沢光晴を究める。
【聖域の深層】
渕 正信[四天王プロレスは批判されるべきなのか?]
【極私的回想――俺と三沢】
阿修羅・原[革命時代]
ターザン後藤[若手時代]
渡部優一[アマレス時代]
【解析――受け身とは何か?】
ザ・グレート・カブキ[王道の極意]
TAKAみちのく[世界の妙技]
丸藤正道[最先端の奥義]
【独占公開――秘蔵コレクション】
幻のマスク&コスチューム[職人だけが知る三沢光晴]
【座談会】
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■特別企画
船木誠勝が「優治」だった時代
[ヤングライオン編]
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■クローズアップ
“放浪の殺し屋”ジプシー・ジョー
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