唯一の街クラブ、三菱養和が秘めるポテンシャル=高円宮杯 三菱養和SCユース 5−0 広島ユース
悩ましい「魔法の時間切れ」
U−16代表経験のある1年生の田鍋陵太(左)。広島戦はフル出場で勝利に貢献した 【平野貴也】
初戦の大阪桐蔭高校戦では後半にガス欠を起こして一方的に攻め込まれ苦戦を強いられた。第2戦の大分トリニータU−18戦は終了間際に何とか得点して得た薄氷の勝利。第3戦はサンフレッチェ広島ユースに5−0と快勝したが、相手はレギュラーを2名しか起用しておらず、結果としては大量点を挙げたが一時的にペースを奪われる時間帯もあった。並のチームならば上出来だが、個々のポテンシャルを考えると、彼らに期待を懸ける人にとっては決して納得できる内容ではないだろう。
負傷者が多いのも悩みの種だ。負傷明けの加藤大は現在の調子を「フィジカルの能力が落ちている。状態は60〜70%」と判断している状況で、田中輝に至っては大会中のフル出場は厳しいとの見方が強く、スーパーサブのような起用法が限界のようだ。夏の日本クラブユース選手権では、FC東京、ガンバ大阪ユースといった強豪ぞろいだったとはいえ、グループリーグ敗退の憂き目に遭うなどポテンシャルをなかなか全開にできないのが悩ましいところだ。
高校総体王者を越えて、Jへの挑戦権獲得へ
「FC東京とは何回も対戦していますから、力が一番強い(チームである)のは分かっています。だから、そこを倒さなければ日本一はないなと思って臨んだのですが、一人ひとりの球際での厳しさは、うちよりもはるかに強い。(技術でかわす)ごまかしだけじゃなかなか勝てないよということは選手に言っていますけど、そういうものはいくら口で言っても選手が体感しないと覚えていかない。アドバイスはできますけどね。自分で実感できたときは、相当頑張れているよと言っています」
ポテンシャルを常勝に結び付けられない理由については、選手も意識しているようだ。攻守にチームを引っ張る加藤は、広島戦後に「最近は、全体的にマークの受け渡しが遅かったり、少し守備にサボりがあるというか、もう少し頑張ればボールを取れるのに行かないという場面が多かった。チームのためにみんながやっていかないといけない。今日は相手のメンバーが変わっていたけど、前から(ボールを取りに)行くという自分たちの守備はできていたと思う」と話した。
斉藤監督が指示を出すのは守備面が主で、攻撃には自由が与えられているという。自由をベースとして輝きを放つ攻撃を、責任ある守備で支え続けられるかどうかが、彼らの魔法を本物の力に変える鍵になるだろう。
鍵を手繰り寄せるのは、勝利への渇望にほかならない。プロの世界を知る斉藤監督は「Jなら常にプロと近場で接するし、プレーする機会もあるし、見てもらえる。でも、勝負の世界だから、われわれのクラブではどれだけ素晴らしいことをしていてもJとやって勝たないと評価はされない。それは、みんなにも話しているし、だから負けたくないという気持ち。この先、どうなるか分からないですけど、できればJを苦しめたいと思っていますよ」と、アマチュアクラブならではのモチベーションでイレブンの奮起に期待を込めた。
決勝トーナメント1回戦は、23日に東京・夢の島競技場で行われる前橋育英高校戦。高校総体(インターハイ)王者を相手に一皮むけた姿を見せ、さらなる高みで待ち受けるであろうJユースへの挑戦権を得られるか。三菱養和SCの野望は、街クラブ初のタイトル奪取だ。
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