M・ジョーダンという唯一無二の存在=バスケ

宮地陽子

引退から5年、最速で殿堂入りを果たしたマイケル・ジョーダン 【Getty Images】

 現地時間の9月10日、バスケットボール殿堂(米マサチューセッツ州スプリングフィールド)で行われた殿堂入り式典前夜の晩さん会でのこと。
 真面目に時間通りに会場に到着したのはデビッド・ロビンソン(サンアントニオ・スパーズ)だった。少ししてマイケル・ジョーダン(シカゴ・ブルズ、ワシントン・ウィザーズ)が到着するとロビーは一瞬にして混乱に陥った。写真を撮る人、サインをもらおうとする人、一目だけでも姿を見ようとする人たちが走り回る。嵐のようにジョーダンが通り過ぎたころ、一般人に混じってジョン・ストックトン(ユタ・ジャズ)が到着、誰に気づかれることもなく、控え室に消えていった。

2003年に引退後、最速で殿堂入りした3人

 今年、選手のカテゴリーで殿堂入りしたのは、史上最強のチームと言われる元祖ドリームチーム(1992年バルセロナ五輪米代表)のメンバーでもあった、この3人だった(※)。3人とも2003年に引退し、殿堂の規定による最速の引退5年後で殿堂入りが認められた。NBAの舞台ではジョーダンがブルズで三連覇を2回達成し、ストックトン率いるジャズは2年連続でNBAファイナルまで進出しながら、ジョーダンに優勝への道を阻まれた。そして、ジョーダンが2度目の引退をしたことで、ロビンソンの優勝への道が開かれた。同じ時代にNBAの舞台で戦い、何かと縁がある選手たちである。

 それにしても、ジョーダンと同じ年に殿堂入りするとは、ロビンソンもストックトンも、何とタイミングが悪いことだろうか。ほかの年なら目玉として注目されてもおかしくない2人だが、ジョーダンと同じ年だったがためにすっかり脇役扱いだ。
 しかし、考えようによっては、それも2人のキャリアを表しているのかもしれない。むしろ2人とも、主役よりは脇役であることで輝くタイプであり、ストックトンにいたっては、主役であることを避けているかのようでもあるから、むしろ、このタイミングの殿堂入りには喜んでいるのかもしれない。

ジョーダンと他の選手との違い

 殿堂入り式典のスピーチで、ロビンソンは、会場を埋めた聴衆に向かって聞いた。
「あなた方は、ひざをついて心から何かを祈ったことがありますか? ティミー(ティム・ダンカン)こそ、私の祈りに神が応え、授けてくれた贈り物でした」。
 少しして、同じ壇上に立ったストックトンは言った。
「30年間、競技としてバスケットボールをしてきたけれど、私は一度もチームで最高の選手だったことはありませんでした」。
 さらに、長くコンビを組んだカール・マローン(ジャズ)を「18年間、私たちのチームのベストプレーヤーでした」と称えた。
 2人とも、自分よりもチームメートのほうがどれだけ長けていたかを語ったわけだ。

 ジョーダンのスピーチには、チームメートをそこまで称えるフレーズは出てこなかった。壇上に立ち、涙を流しながら「(直前に流れた)ハイライト映像に映っていたのは私だけではありませんでした。いつでも、どの優勝のときもスコッティ・ピッペン(ブルズ)が一緒にいました」とピッペンの存在が大きかったことを語ったが、それでも、決して自分よりピッペンのほうがいい選手だとは言わない。ジョーダン自身が最高の選手であることを証明してきたのだから当然なことであり、誰もそれに異論を唱えるわけでもないが、そうでなかったとしても誰かより自分が下だと認めるのはジョーダンの性分ではないのだ。

ジョーダン、50歳で復帰もある!?

 そのことは、その後のスピーチで、いかに自分が周りの敵や批判者に対して自己証明しようとしたか、いかにそれに成功してきたかを語っていたことにも表れていた。人によっては殿堂入りのスピーチで言うべきことではないと感じたかもしれないが、それこそが、ジョーダンと他の選手の違いなのだ。
 だからといってジョーダンが他の選手を認めていないというわけではない。その日の朝の記者会見で、ブルズと2度のNBAファイナルを戦ったジャズについて聞かれたとき、ジョーダンはこう語っている。
「彼らを2度も倒すことができたことは、私たちのチームにとっても意味があることだった。彼らは本当に素晴らしいチームで、2度とも彼らが勝っていたことだって十分にありえた。(中略)彼らとの戦いは楽しかった。私の競争のレベルを最高点まで引き上げてくれた。私たちが2度勝つことができたのは幸運だった」と。

 ところで、ジョーダンが“ジョーダン”であり、他の選手とは違うということは、スピーチを締めたこんな言葉にも表れていた。
「今日、私はバスケットボール殿堂入りという栄誉を与えられたわけですが、これがバスケットボールとの関係が切れてしまう瞬間だとは思っていません。ただ単に、ずっと前に始めたことをこの先も継続するだけのことです。そのうち、皆さんは私が50歳でバスケットボールをしている姿を見ることになるかもしれません。笑わないでください。絶対ないとは決して言いません。何しろ、多くの場合、限界も、恐怖と同じように幻想に過ぎないのですから」
 他の選手なら冗談で片付けるところだろう。しかし、ジョーダンが言うと、本当に現実になりそうな気がしてくる。ちなみに、ジョーダンは今現在、46歳。3年半後の2013年2月17日に50歳の誕生日を迎える。


(※)3人のほかに、コーチとしてジェリー・スローン(ジャズ)、C・ビビアン・ストリンガー(ラトガー大)も殿堂入りしている。

<了>
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著者プロフィール

東京都出身。国際基督教大学教養学部卒。出版社勤務後にアメリカに居を移し、バスケットボール・ライターとしての活動を始める。NBAや国際大会(2002年・2006年の世界選手権、1996年のオリンピックなど)を取材するほか、アメリカで活動する日本人選手の取材も続けている。『Number』『HOOP』『月刊バスケットボール』に連載を持ち、雑誌を中心に執筆活動中。著書に『The Man 〜 マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)がある。現在、ロサンゼルス近郊在住。

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