追い詰められたポルトガル、苦戦の原因=ケイロスは“故郷”アフリカに錦を飾れるか

市之瀬敦

追い詰められたポルトガル代表

ポルトガル代表でのC・ロナウドはなぜか決定力を発揮できていない 【Photo:Action Images/アフロ】

 今月5日のデンマーク戦、そして9日のハンガリー戦を前に、ポルトガル代表は追い詰められていた。2010年ワールドカップ(W杯)欧州予選で、順位はグループ1の3位につけていたものの、首位を走るデンマークには勝ち点「7」の差をつけられていたのである。首位通過はもはや夢のまた夢という感じだった。

 プレーオフに進出する2位の座を確保するために、アウエーのゲームとはいえ、デンマーク戦は必勝モード。というよりも、ポルトガル代表の周囲には、9月と10月の残り4試合は全部勝つのが義務だという悲壮感さえ漂っていた。
 結局1−1の引き分けに終わった5日の試合は、ケイロス体制になってからのポルトガル代表を象徴するかのような内容だった。圧倒的な技術的優位。しかし、決定力不足に効率の悪さ、そして不運。さらにメンタルの弱さも重なった。相手DFのハンドが主審によって見逃され、PKをもらえずにいると直後に失点。これは、メンタルコントロールの稚拙さそのものである。決定力不足は「国民病」のようなものだから、今に始まったわけではないのだが、ケイロス体制になってからより重症になったように思える。

 ただし、デンマーク戦に引き分け、グループ2位さえ自力では確保できなくなったとはいえ、ハンガリー戦に向けて期待を持たせる面もあった。確かに、ここ数年間のポルトガルは欧州予選でライバル国との直接対決になると勝ち切れず、よくて引き分けを繰り返してきた。今回の予選でもデンマークとは1分け1敗。スウェーデンとは2分けである。
 しかし、終了間際にブラジルから帰化したばかりのFWリエジソンが同点ゴールを決めたのは心強かった。所属クラブのスポルティングだけでなく、リエジソンが代表レベルでも得点能力を発揮できると証明できたことは朗報であった。

 さらにまた、2度の直接対決を残すハンガリーはポルトガルにとってきわめて験の良い相手である。時代を遠くさかのぼれば、ポルトガルがW杯に初出場を果たした1966年のイングランド大会で、ポルトガルは1次リーグでハンガリーを3−1で下しているし、最近ではユーロ(欧州選手権)2000の予選でもハンガリーを2試合とも破っている。何しろポルトガルはハンガリーに負けたことがないのである。この苦しい時期に、ハンガリーとの連戦が残されていたというのは、ポルトガルにとってありがたい話であった。

現実主義で勝ち点「3」

 9日のハンガリー戦は、4日前とはずいぶんと違っていた。結果は1−0でポルトガルの辛勝。デンマーク戦とは異なり、ポルトガルは開始10分にペペのゴールで先制すると、残りの80分間はゲームをコントロールすることに専念、決して無理はしなかった。華麗なテクニックで見る者を魅了しながらも結果を残せなかったそれまでの試合とは違い、現実主義的に勝ち点「3」を確保してみせた。大人の戦い方だったと言えるだろう。

 それにしても、デンマーク戦でゴールを決めたのがリエジソン、ハンガリー戦で決勝点を挙げたのがペペ。どちらもブラジルから帰化した選手である。しかも、リエジソンにCKからアシストしたのがナニ(西アフリカのカーボベルデ生まれ)、ペペにFKからアシストしたのがデコとなると、ポルトガル代表で試合を決めるのは帰化選手だけなのか、と少し嘆きたくもなるのである。ま、これもポルトガルらしいと言えば、らしいのだが……。

 9日夜、ポルトガルにとって幸運だったのは、デンマークがアルバニアと引き分け、スウェーデンがマルタに勝利したものの1点しか取れなかったことである。これで、10月10日のデンマークとスウェーデンの対決は「北欧同盟」(?)によるなれ合いの試合ではなく、ガチンコになるはずだ。そして、スウェーデンが得失点差を広げることができなかったこともうれしい知らせ。9月の2試合を終えて、かすかとはいえ、ポルトガルに希望の光が差し始めたような気がする。

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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