都市対抗で明暗を分けた注目選手たち

島尻譲

救援で好投した須田、奪三振率高い榎田

3試合に救援登板し、Hondaを優勝に導いた須田。好投が評価されて若獅子賞を獲得した 【島尻譲】

 社会人野球最高峰の舞台と呼べる都市対抗。ベテラン、中堅、若手を問わず、ここでの活躍は絶好のアピールとなるのだが、ネット裏に居並ぶプロ野球スカウト陣が特に若手選手の動向に目を光らせていることはいうまでもないだろう。また、多くの社会人野球ファンもフレッシュなスター誕生を楽しみの一つにしている。

 大会で好成績を収めた新人選手には若獅子賞(第44回・1973年から制定)の栄誉が贈られるのであるが、ことしは須田幸太(Honda・狭山市/JFE東日本からの補強選手)、榎田大樹(東京ガス・東京都)、村尾賢吾(日立製作所・日立市)の3選手が獲得した。なお、3選手の同時受賞は2002年の第73回以来、5回目のことである。
 須田は新人ながらもHondaの安定感ある投手陣の中で抑え役を任された。初戦となった鷺宮製作所(東京都)戦では3番手として7回途中からマウンドへ。四球を一つ与えたものの、力のあるストレートを武器に勝ち試合を締める。続く三菱重工神戸(神戸市)戦では。3点リードの6回1死一、二塁からの救援。いきなり大久保直紀(新日鉄広畑からの補強選手)に同点本塁打を被弾してしまうが、ここで崩れることなく、落ち着いた投球で後続をピシャリと断った。そして、味方の援護があって、白星をつかんだ。準々決勝の東芝(神奈川)戦も最終回を抑え、決勝のトヨタ自動車(豊田市)戦では8回無死一、二塁という厳しい場面での登板も、Hondaベンチの期待に応える好リリーフで優勝を決める胴上げ投手となった。来年はドラフト解禁イヤーなだけに自チームのユニホームでことし以上のアピールをしたいものだ。
 榎田は日本通運(さいたま市)戦、NTT西日本(大阪市)戦で2試合連続先発のマウンドに上がった。球速は常時130キロ台後半であるが、コーナーをたくみに突く投球とキレ味鋭いスライダーやチェンジアップを武器に、14回3分の1で18奪三振と奪三振率が高かった。2試合とも救援を仰いで完投勝利こそ逃したが、これはトーナメント戦を考えてのさい配も関係していると思われ、スタミナ不足という印象は全く受けなかった。予選時からフル回転していたが、今大会での活躍でさらに自信を深め、チームの大黒柱へのステップを一つ駆け上がった。

伊波、大塚の高卒ルーキーは社会人の洗礼

 村尾はスイッチヒッターの遊撃手で9番打者の役割を担った。初戦の三菱自動車岡崎(岡崎市)戦で3安打を放ち、好スタート発進。2回戦・沖縄電力(浦添市)戦と敗れた準々決勝・NTT東日本(東京都)戦は無安打に終わったが、左右どちらの打席でもコンパクトなスイングで粘ることができて、選球眼も良く、好調であった上位打線へのつなぎ役として十分に機能した。172センチ、70キロと小柄ではあるが、今後もイブシ銀のプレーヤーは重宝されるであろう。
 そのほかに目立った新人選手たちを列挙すると、投手では岩見優輝(大阪ガス・大阪市)、吉元一彦、安部建輝(ともにNTT西日本)、滝谷陣(日本新薬・京都市)ら近畿勢が健闘していた。野手では中倉裕人(日立製作所/住友金属鹿島からの補強選手)、堀内久大(Honda)、山地大輔(大阪ガス・大阪市)、梅津正隆(NTT西日本)、津野祐貴(三菱重工神戸)といったところが気を吐いた。

 逆に全国大会の厳しい洗礼を受けて、ホロ苦い都市対抗デビューとなったのは仲宗根進二、伊波翔悟(ともに沖縄電力)、大塚椋司(新日本石油ENEOS・横浜市)、佐川仁崇(日本生命・大阪市)らになる。仲宗根、佐川は先発のマウンドを託されたが、早々にノックアウト。高校時代に甲子園で名を馳せた伊波(浦添商高出身)と大塚(聖望学園高出身)はボールカウントを悪くしてからの痛打で、社会人野球の高くて厚い壁を実感させられることになった。ただ、この大舞台での経験を糧にして、一回りも二回りもスケールアップした投手になってほしいものである。

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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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