城島、野球人生で最も厳しい状況

丹羽政善

城島を襲ったアクシデント

ワカマツ監督(左)とともに投手のもとへ集まる城島 【写真は共同】

 ところで、このころ、城島は連日のようにスタメンに名を連ねていた。代打も含めれば、5月15日から23日まで休みがなかった。連続出場としては今季最長である。

 そんな中で流れが一転したのは、5月25日。本塁のクロスプレーで左足の親指を骨折すると、長期休養を迫られる。その間に、控え捕手のロブ・ジョンソンが実績を残し、以来、立場が逆転してしまった。

 城島は、6月26日に復帰を果たすも、定期的な出場は長く続かず、出場機会を奪い返すにはいたらなかった。

 どっちが正捕手で、控え捕手なのか?

 逆転現象が明確となったのは、7月19日のインディアンス戦。前日のナイターでジョンソンが先発。19日はデーゲーム。通常、メジャーでは、こうした日程の場合、ナイターとデーゲームの捕手が違うものだが、マスクを被ったのは、その日もジョンソンだった。

 その日の試合前、地元記者らはその理由を監督に問いただしたが、実際は、その前から、城島の出場機会は減っており、城島が説明を求めるために監督室の扉をたたいたのは、その1週間ほど前のこと。

 そのとき、ワカマツ監督ははっきりと城島に、その不規則な起用はしばらく変わらないと伝えたよう。

 厳しい宣告だった。

ワカマツ監督がジョンソンを起用する理由

 前半戦最終日、試合が終わってから、ワカマツ監督の部屋を尋ねて城島の起用法を確認すれば、ワカマツ監督は、言葉を濁すことなくこう明確な線を示している。

「ジョンソンは、城島のいない間に、投手から信頼を得た。城島が、毎日のようにプレーしたいなら、もう一度、投手との信頼関係を築かなければならない。投手らが『ジョー被って欲しい』と言えば、また、毎日のようにラインアップカードに彼の名前を書くよ。


 この時、ワカマツ監督は、「結果が証拠として出ている」とも話した。

 起用に関する逆転現象が明確となった7月19日の試合前の時点で、ジョンソンが先発したときの勝敗が26勝16敗。投手防御率は2.87。一方の城島は、13勝20敗で、防御率4.83。

 ワカマツ監督は、19日の試合前の会見で、「勝敗や投手防御率を比較するのは、受ている投手も違うし、相手も違うのでフェアではない」などと、オールスター前の発言を否定するようなコメントをしているが、同一投手で防御率を比較しても、例えば、オールスターにも出場したフェリックス・ヘルナンデスの防御率は、7月19日の時点で、ジョンソンのときが1.21(9試合)で、城島のときが、7.22(5試合)である。

 残念ながらその傾向は、ヘルナンデスの場合だけではなく、ジャロッド・ワッシュバーン(現タイガース)、エリック・ベダードとの組み合わせでも、明確な差が出ていた。

キャリア最大の試練に直面する城島

 後半に入り、城島がマスクを被ってチームが勝ったのは、5試合目のこと。彼が受けるのは今、先発の4番手、5番手という状況。これでは、彼が先発した試合の勝率を劇的に変えることは難しい。

 城島は、前半の最終日に、「ケガが一番よくない。シーズンを離れるのは」と話したが、まったくその通り。チームに一つしかないポジション。チャンスを与えてしまったことが、ことの始まりだった。

 8月10日、城島は6回に決勝2ランを放っている。この時、こんなことを言った。

「ゲームに出たら人とは違うパフォーマンスを見せるのがプレーヤー。それしかない。試合に出してくれって願うよりは、出たときにキッチリ結果を出して、ラインアップに戻っていく。それしかない。それで認めてもらうしかない」

 そうは言っても、これだけ出場を制限されては、結果を出す機会すら限られる。

 トレードにより、ワッシュバーンがチームを離れた。ベダードは肩の故障で、今季絶望。ジョンソンを指名してきた2投手が先発ローテーションを外れたことで、城島にチャンスが回ってくるかと思われたが、起用法の傾向そのものに変化はない。先週、3試合連続で先発しているが、それはジョンソンが右ヒジを痛めたからにすぎなかった。

 9月に入れば、マイナーからアダム・ムーアという捕手が昇格してくる。今のチーム状態では、ワカマツ監督もシーズン終盤は、若手にチャンスを与えることになるだろう。となれば、ますます、城島の出場機会は限定される。

 そんな状況に置かれた城島はいま、心の中で、どんな葛藤(かっとう)と戦っているのか。

 不満を漏らせば、チームの和を乱す。

 じっと耐え、来季をどう見据えるのか?

 言うまでもなく、彼は今、野球人生の中で、もっとも厳しい状況にさらされている。

<了>

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。

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