VVV本田「3試合連続ゴールは貪欲に狙っていた」〜オランダからの叫び〜

中田徹

本田のゴールに実況も興奮「何という美しさ!」

3試合連続ゴールで沸き立つ周囲をよそに、本田は冷静に置かれた状況を見ている 【写真は共同】

 16日はアウエーでのユトレヒト戦だった。相手はここまで2戦2勝。すでにPSVが4−3という劇的な試合を制し、アヤックスの連勝をストップさせていたから、ユトレヒトは勝てば単独首位である。今季、1部の台風の目の存在であるユトレヒト相手に、開始早々、本田がシルバーバウアーを簡単にかわしてスペースが生まれた。
「もうちょっとファウルで止めに来るかなという覚悟があった。あんなに簡単にターンさせないでしょう!? ちょっと体をグッと抑えたら止まっていた。足も出してこなかったので、こけずに済んだ」
 本田のスルーパスが、カラブロのゴールのアシストとなり、VVVが先制した。しかし好調ユトレヒトは57分に2−1と逆転する。
「リードされてからまたスペースがなくなった。向こうがリスクを負わなくなった」

 スペースはない。「シュートを打つのは難しい」と感じながら、本田は「楽だな」とも感じていたという。
「ユトレヒトは思った以上に点を取りに来る姿勢が薄かった。おれのマークも(前に)いかないし、後ろの選手も全員残っているし、リスクマネジメントしまくりという印象でした。PSVは後ろの選手もドリブルで来るとか、そのあたりは圧倒されていた。ユトレヒトはカラブロのプレッシャーが遅れていてもロングキックを蹴ってきた。前の選手(アサレ、メレンガ、ジョージら)は強いんですけどね。恐怖感はなかった。メルテンスをマークしたフルーレンの対峙だけはまたやられんるんじゃないかという気がしましたけど」
 ユトレヒトの2ゴールはメルテンス。昨季2部リーグのMVPが本田なら、新人王は当時AGOVVでプレーしていたメルテンスだった。ユトレヒト対VVVはこの2人の競演だった。

 77分、突然チャンスが本田に訪れた。フルーレンが左サイドで粘ってカットイン。こぼれかかったボールを本田が拾ってワンフェイクからシュート。オランダのメディアは25メートルと書くが、実際には30メートルありそうな距離からの無回転シュートがユトレヒトのゴールに突き刺さった。「うわ、何という美しさ!」。実況アナウンサーは興奮し、VVVの選手、テクニカルスタッフ、サポーターが喜ぶものの、スタジアムの大多数を占めるユトレヒトの観客はシーンと静まり返った。

「一瞬、もしかして上に行くかなと思ったんですけど、意外と落ちてくれて風もなくぶれなかった。やはり若干無回転だった。自分の得意としているゴールかな。でも勝ち点3につながるゴールを正直取りたいかなという感じ。3試合連続ゴールは貪欲(どんよく)に狙っていました。こういうチャンスはなかなかない。3試合連続というのは僕自身初なんで、プレッシャーに打ち勝ちたいと試合前から格闘していました。あのボールが来る前はマーカーの引き付け方とかすべて狙い通りでした」
 これがこの試合で放った本田の唯一のシュート。スペースが生まれるのを待って待って、ようやく打った会心のシュートだった。

白熱する移籍騒動に本田「一番残りたいのはオランダ」

 2−2の引き分けにユトレヒトのサポーターはブーイングを送り、その後、ぼうぜんと席に座ったまま固まっていた。「この試合、VVVにやられたんじゃなく、本田1人にやられたんだよな……」。そんな信じられないような顔をしていたのだ。

 最初に本田に群がったのは日本人記者ではなく、オランダ人記者たちだった。複数のテレビ局から取材を受ける本田の英語を彼らは真剣な目で書き留めている。「今日がVVVでの最後の試合?」とインタビュアーが聞く。
「そうは思わない。僕はオランダに残りたい。ここは心地が良いし、人々も優しい」。早速、オランダのメディアは「本田はオランダに残る」と記事にし、地元紙はゴール直後の本田の投げキッスを「お別れのキス?」と見出しにした。

 ただでさえ本田の移籍報道は加熱しているが、さらにこの日の活躍でヒートアップしていく。しかし本田は「たかが3試合で」と少し怒り気味に話す。
「僕としては2部リーグを見て、早く獲得してくれという感じでしたけどね。結局そこの見る目のなさというのは感じてますし、そこで気づいていないのにたかが3試合で気づくのか、そこで確信に変わるのか、そんな楽観的なのかというぐらい僕は逆に疑っていますね」

 オランダに残りたい――とオランダのテレビに語った真意については、「何回も言うように僕はそんなに頑固じゃない。あくまで僕の(移籍への)扉はすべて開いてます。でも、僕が一番残りたいのはオランダ。その気持ちは変わりないです」と説明した。

 敵味方がハッキリするオランダのサポーター界。しかしスタジアムの外へ出ると、ユトレヒトのサポーターたちが「ホンダー、ホンダー、ホンダー」とうれしそうに声をかけてくる。
「今日はすごいものを見てしまったな」と彼らもそうあきらめて、楽しむしかないのだろう。ユトレヒトだって勝ち点7で首位トゥエンテと並んでいるのだから好調を維持していることに変わりはない。いつまでもくよくよすることもないのだ。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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