女子短距離勢、100分の1秒を巡る争い 春季グランプリシリーズを振り返る

折山淑美

3レース続けて100分の1秒差

4月29日の織田記念の女子100mでは追い風参考ながら福島(中央)が11秒23、高橋(右)が11秒24、渡辺が11秒34をマーク 【写真/陸上競技マガジン】

 4月29日に行なわれた織田記念陸上女子100メートルから3レース続けての0秒01差の争い。3度目の敗戦を喫した高橋萌木子(平成国際大)は「またですねぇ」と言って苦笑を浮かべた。
「スタートはトム・テレツさん(カール・ルイスの元コーチ)から、低くなり過ぎずに45度の角度で出ることと、見なくてはいけない場所にしっかり目線を据えることだと言われてそれはできたんです。でも、もう一歩追いつかなくて……」

 5月9日の国際グランプリ陸上大阪大会女子100メートル決勝。日本記録を期待されたレースは、向かい風0.9メートルの条件で2位の福島千里(北海道ハイテクAC)が11秒56、3位の高橋が11秒57という結果に終わった。昨年の日本ランキングなら4位と5位に相当する記録だが、誰もがガッカリしたような気分にとらわれてしまう。

「少し硬さはあったかもしれないけど、自分の走りをすれば記録はついてくると思っていました。これまでと同じように隣を意識しないで走ったけど、タイムは良くなかったので。反省して、次で頑張ります」
 こう話す福島は、「疲労はあったか」という質問に「少し疲れていたかもしれません」と答えた。

 29日の織田と5月3日の静岡国際陸上に続く3大会目。特にこの大阪では、2時間ほど前に4×100メートルリレーを走り、43秒58の日本新記録を樹立していたのだ。
 2走を任された福島は10秒3台のラップタイムで走り、「独走ではなくて前に人がいればもう少し追えたかもしれない」という高橋も、アンカーで10秒5台のラップタイムを出す力走を見せていた。

福島、北京五輪の経験を経て

女子200mの日本記録の変遷 【写真/陸上競技マガジン】

 開幕したばかりの陸上トラックシーズン。好調なスタートを切った男子短距離の塚原直貴、高平慎士(ともに富士通)らを上回るような活躍で注目を集めたのは、女子短距離の同学年コンビ、福島と高橋だ。
 最初の織田記念の100メートルでは、追い風2.2メートルと惜しくも公認記録にはならなかったが、11秒36の日本記録を大幅に上回る11秒23と11秒24の勝負をした。さらに4日後の静岡国際の200メートルは、それまでの日本記録23秒33を大きく更新する23秒14と23秒15を出したのだ。

 北海道ハイテクAC入りしてからスタート技術に磨きをかけ、昨年は100メートルで11秒36の日本タイ記録をマークして北京五輪出場を果たした福島。大舞台を経験した強みに加え、200メートルでは、昨年も追い風2.7メートルの参考記録ながら23秒13で走っていただけに、日本記録を出すのは時間の問題と見られていた。だが今年はその走りにさらに磨きをかけ、100メートルでの記録向上にも成功したといえる。

5月3日の静岡国際では、女子200mで日本新をマークした福島 【写真/陸上競技マガジン】

 静岡の200メートルでもその成果を存分に発揮した。スタートから果敢に突っ込む思い切った走りをして、最後5メートルは脚が止まってしまいながらも、高橋を0秒01抑えた。
「私がやりたいと思っていたレースができたと思います。男子は100メートルの記録の2倍よりも速いタイムで200メートルを駆け抜けているので、私もそういうところまでやってみたいんです。思い切り行ってどこまで持つかわからないけど、将来的にはそうなりたいですね」
 五輪を経験して精神的にも変わったという福島は、男子に負けない勇気と、挑戦する意識を持つようになってきたといえる。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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