女子短距離勢、100分の1秒を巡る争い 春季グランプリシリーズを振り返る

折山淑美

高橋、スタート法を変えたことが好記録に

リレーメンバーでもある2人は、5月9日の国際グランプリ大阪の女子400Rで日本新を記録。写真は1走の北風、2走の福島、3走の渡辺、4走の高橋 【写真/陸上競技マガジン】

 一方、高校時代はインターハイ史上初の100メートル3連覇を達成した高橋も昨年は走りが崩れて苦しんでいたが、今年は得意の後半の勢いが倍増するようになった。静岡の200メートルでも、直線に出てきたときには福島と、もう「勝負あった!」といえるような差があった。だがそれをラスト50メートルで一気に詰めて、0秒01差の勝負にまで持ち込んだのだ。

「冬季はスタートを中心に磨いていたので、得意だった後半がどうなるか不安だったんです。でも走ってみたら加速力がだいぶついてきたようで……。100メートルも200メートルも、出たタイムにビックリしているんです」と笑顔を見せた。

 この冬から取り組んでいた新しいスタートは、男子の塚原と同じジャマイカ式のスタート法。ピッチを刻んで加速するのではなく、地面を長めに押す感覚でストライドを伸ばして加速していく走法だ。

 静岡国際ではこう話していた。
「試合ではまだ記録会を含めて3回目なんです。練習では上手くできても、試合では力が入ってしまうんです。今日も私が1歩進んでいる間にチー(福島)が2歩進んでるからちょっと焦ってしまったんですね」
 とはいえ、スタートからの加速でこれまでより力を使わなくなったことが、後半の伸びを生み出しているのだろう。

 本人は今年、「200メートルの方が世界に近い」という意識を持ち、100メートルではなく後半の走力をより発揮できる200メートルを狙うという。だが、その相乗効果で100メートルの走力が上がってきていることも、記録は証明している。課題のスタートも、大阪では少し改善されていたことを考えれば、200メートルは更なる記録の伸びも期待できる。

更なる記録更新の期待大

 200メートルの日本記録で、2人は今年の世界選手権参加B標準記録(23秒30)を突破した。だがB標準では1人しか出場できない。彼女たちが狙うのはもちろんA標準であり、2人そろっての出場だ。
 A標準を見れば、100メートルは11秒30で200メートルは23秒00。追い風参考ながら11秒23と24を出した100メートルは、条件さえよければ突破できる可能性は高い。さらに200メートルでも、高橋のスタートが改善されてもう一段上の競り合いができるようになれば、突破も可能だろう。

 もし2人ともがA標準突破となれば、追い風参考となった織田記念の100メートルで11秒34のタイムを出してB標準(11秒40)へ王手を掛けている渡辺真弓(ナチュリル)も、世界選手権出場が可能となる(A標準記録突破者は最大3名まで。A突破者がいれば3名以内を条件に、B標準突破者を1名追加可能)。

 新チームでバトン練習は前日のみだったという4×100メートルリレーの日本記録更新で、更なる記録アップが見えている女子短距離。男子に負けないような勢いを、20歳の2人がつけようとしている。

<了>

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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