3季連続最下位チームが目指すJ1昇格=躍進する徳島の改革・第2章

佐藤拓也

「天才」柿谷曜一朗がやってきた

C大阪から徳島へ期限付き移籍した柿谷。チーム関係者、サポーターも大きな期待を寄せる 【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】

「チームは生き物ですから、育ってきたら今までとは違う“エサ”を与えてあげないといけないんですよね」

 J2徳島ヴォルティスの中田仁司強化育成部長はそう語る。
 第21節終了時点で5位につけていた徳島にとって、さらに上位に食い込むために与えられた新たな“エサ”が、柿谷曜一朗であった。幼少時から「天才」と評され、各年代の代表に選出。16歳でセレッソ大阪とプロ契約を結ぶなど、新たな日本サッカー界のスターとして期待された選手であった。しかし「天才」と評されるがゆえのムラッ気の多い性格が災いし、トップで結果を出せない不完全燃焼の日々を送っていた。さらに、遅刻を繰り返すなど、ピッチの内外で柿谷は周囲の期待を裏切り続けていた。

 そんな苦悩し続ける19歳に救いの手を差し伸べたのが中田部長。柿谷のジュニアユース時代には、C大阪のユース統括責任者だったこともあり「彼の心の中がよく分かるし、なぜ遅刻してしまうのかなども分かるんですよ」と語る。悪いうわさが飛び交う柿谷の獲得については、周囲から懐疑的な声もあがった。それでも「絶対に問題はない」と中田部長は断言し、獲得を決めることとなった。柿谷の扱いに手を焼いていたC大阪との交渉もうまく進み、6月17日に徳島への期限付き移籍が決定する。

柿谷の獲得は「次なるステップへのスイッチ」

 その柿谷が、いきなり天賦の才能を見せつけた。加入して3日後の第22節横浜FC戦で早速先発出場を果たすと、相手ディフェンスの裏に飛び出し、右サイド角度のないところから豪快にシュートを決めて見せたのだ。まさにスター性の塊(かたまり)。このワンプレーで徳島サポーターのハートをわしづかみにした柿谷は、その後も7試合連続フル出場を果たし、2ゴールを決めるなど、攻撃の核として活躍。攻撃的なパスサッカーを標ぼうする徳島において「個で局面を打開できる貴重なファクター」として不可欠な存在となっている。

 問題視されていたピッチ外においても、柿谷は周囲を納得させる行動を見せている。クラブ側も、練習場近くの選手寮を用意し、ペ・スンジンと行動を共にさせるなど細心の注意を払っており、これまで遅刻は一度もない。それどころか、ほかの選手よりも早くグラウンドに現れることもあるくらいだ。ホームのナイトゲームの場合、徳島の選手たちは14時に練習場に集まり、簡単に体を動かしてから試合会場に向かうのだが、柿谷は11時半に出てきて1人でボールを蹴っているという優等生ぶりを見せている。

「それだけサッカーに集中できているということですよ」と中田部長は笑顔を見せる。柿谷が背負い続けてきた「負」の部分は、今のところ表に出ておらず「チームに好影響しか与えていない」(中田部長)。そして、そんな柿谷の獲得こそが「徳島においての新たな意思表示であり、次なるステップへのスイッチ」だと中田部長は言い切る。

改革の第一歩はベテラン選手の補強

羽地(右)らベテラン選手の補強がチームに変革をもたらした 【佐藤拓也】

 では「次なるステップ」とは何か。その前に、今季の徳島の目標設定について触れておく必要があるだろう。3季連続最下位という屈辱から這い上がるために、クラブの威信を懸けて挑む今シーズン。そのためにクラブが掲げた目標は「最下位脱出」ではなく「6位以内のAランクに入ること」(中田部長)だった。
「最下位脱出という小さな目標では、これまでと何も変わらない。チームを改革するためにも高い目標を掲げなければならなかった」

 そう振り返る中田部長。改革の第一歩としてチームに施されたのが、MF徳重隆明、DF三木隆司、FW羽地登志晃といった経験豊富なベテランの補強であった。
「3季連続最下位になりましたが、3季ともに監督が違う。ということは、監督を代えても変化がなかったということ。だから、選手を入れ替える必要があったんです」

 昨年、徳島の強化部長として就任した際、中田部長が第一印象として感じたのが、チームの「プロ意識の欠如」であったという。「24時間、サッカーと向き合えている選手はほとんどいなかった」。そうしたサッカー以前の意識の部分を変えるためにも、第一線で戦ってきたベテランの存在が必要だったのだ。

 その効果が、シーズン序盤から如実に表れた。昨季途中に加わった倉貫一毅とともに、彼らベテランがチームの中心となったことで、確実にチーム力は向上。昨季までのもろさは影を潜め、たくましいチームへと変ぼうを遂げる。
「彼らが加わってチームは本当に変わった」と中田部長は語る。ピッチ上でのプレーはもちろん、食事の取り方や体のケアなどにも細かく気を配る姿勢を示すことで、若手選手たちの意識も変わっていった。キャンプから大きなけが人が出ていないことも、チームの飛躍を支えており、何よりも改革がうまく進んでいることを証明していると言えるだろう。そして気が付けば徳島は、最下位脱出どころか、当初の目標だったリーグ上位に躍り出るまでになった。

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著者プロフィール

1977年7月30日生まれ。横浜市出身。青山学院大学卒業後、一般企業に就職するも、1年で退社。ライターを目指すために日本ジャーナリスト専門学校に入学。卒業後に横浜FCのオフィシャルライターとして活動を始め、2004年秋にサッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊に携わり、フリーライターとなる。現在は『EL GOLAZO』『J’s GOAL』で水戸ホーリーホックの担当ライターとして活動。2012年から有料webサイト『デイリーホーリーホック』のメインライターを務める。

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