スタンコビッチが語るモリーニョの素顔=インテルの指揮官が見せる“表と裏”

敗戦ほどプライドを傷つけるものはない

モリーニョの信頼を勝ち取ったスタンコビッチ。「モリーニョの性格はシンプルかつ複雑」と話す 【Photo:アフロ】

 モリーニョが選手に雷を落としたことがあった。1月18日のセリエA、アタランタ戦のハーフタイムでのことだった。前半に3点のリードを奪われてロッカールームに戻ると、彼には冷静さのかけらもなかった。選手を一方的にまくし立てた。これでもかっていうぐらいにね。でも、その時の彼の行動は理解できる。選手を奮起させるためにあえてその行動を取ったのだろうし、インテルの選手としての誇りを忘れるなとのメッセージも込められていた。結局、その試合は1−3で負けてしまったけどね。

 でも、試合翌日のトレーニングでモリーニョはこう叫んだ。
「赤ん坊のようにめそめそ泣いている暇なんかどこにある? 少し怒鳴っただけなのに、少女のようにセンチメンタルになるんじゃない」
 敗戦のショックから抜け出して、切り替えることが大切なんだ。それを僕らは忘れていた。でも彼の言葉のおかげで、その後のリーグ戦は好調だった。試合に敗れることほど、モリーニョのプライドを傷つけるものはない。それは親善試合でさえも。だから、この時の敗戦は彼にとって受け入れ難いものだったはずだ。でも、監督自らが変わろうとしていた。僕らも見習わないといけないと思った瞬間だった。

モリーニョの中には白と黒の2つしかない

 モリーニョの性格はシンプルであり、複雑でもある。選手は彼の期待にプレーで応えようと必死だし、シーズン初めの僕らは、集中力を100パーセントどころか300パーセントにまで研ぎ澄ましてトレーニングしなければいけなかった。決して簡単なものではなかったけれど、選手たちは徐々に彼が何を求めているかを理解し始めた。そうなったら、彼のために努力を続けるのみだ。

 意外かもしれないが、彼はトレーニング中によく笑う。もちろん、ふまじめというわけではない。練習では選手に、常に100パーセントを求めているしね。ただ、冗談を言ったりしてチームの雰囲気を和ます術(すべ)を心得ているんだ。
 一方でメディアに対しては、全く別の人物になる。テレビや新聞を通して見る彼の姿は横柄に見えるかもしれないけれど、それは彼の性格を成す側面にすぎない。彼が強い人間であることの証拠なんだ。

 あるメディアがモリーニョの発言に対して抵抗しようとしたときがあった。きっと監督の態度が面白くなかったんだろう。だけど、そのメディアはすぐに白旗を揚げた。モリーニョに言葉で勝てる人間なんて存在しないからね。少なくとも彼自身はそう思っているはずだ。
 会見では、ある選手が良いプレーを見せたら「良い」、悪いプレーには「悪い」と、必ず思ったことを口にする。審判の判定や相手監督に対しても同じことが言える。彼にとって秘密を守ること、つまり黙ることは何の意味も持たない。

 モリーニョの中には白と黒の2つの色しかない。それ以外の色は存在しない。そして思ったことはすべて口に出す。
「わたしは君に信頼を寄せていない。君は今後、わたしの下でプレーしないだろうし、それがいつまで続くかも分からない」。それが1つ。もう1つは「君なしではやっていけない」。この2つのどちらかなんだ。だから、僕らは常にがけっぷちにいる。そこがインテルの強さの秘密だね。

<了>

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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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