地に落ちた名門ニューカッスル、偏愛が招いた悲劇=プレミアリーグ

東本貢司

故障者続出のボロが悲運の降格

サウスゲイト監督はミドゥルズブラを残留へと導くことができなかった 【Getty Images】

 そのニューカッスルと長年の“同郷”ライバル関係にあるミドゥルズブラ(通称ボロ)の場合は、かなり趣を異にする「無念の降格」と評価すべきだろう。
 ここには、コアなサポーターたちとの間に、ついぞ異常なねじれ関係が生じたためしもない。オーナーチェアマンのスティーヴ・ギブソンは一貫してギャレス・サウスゲイト監督以下に全幅の信頼をおき、可能な限りの支援、バックアップを貫いてきた。ニューカッスルのように、監督、プレーヤーの“名前”にこだわりすぎる補強も、近年はまったく見られない。スチュワート・ダウニングを筆頭に、生え抜きの逸材もほぼ切れ目なく順調に育つ素地にも定評がある。ややディフェンシヴ寄りながら、戦術は総体的にオーソドックスでバランスも良い。現にここ数年来、たびたびビッグ4と互角の勝負を展開し、金星も少なくなかった事実からも、今でもプレミアで十分に戦える実力を有していると見ていい。

 質実剛健、きわめて優良な“イングランドらしい”チームなのである。にもかかわらず、踏みとどまれなかったのは、そう、故障者が続出して満足にベストチームを組めなかった――それ以外に、確たる原因、理由が思い浮かばない、見当たらないのだ。果たして、ちまたではニューカッスル以上に、このクラブの降格を嘆く向きも少なくなかった。

 それゆえに、即プレミア復帰を目指すボロの課題は小さくない。トゥンジャイ、フートら経験豊富な助っ人らの放出はやむを得ないとしても、今シーズンの収穫、アダム・ジョンソン(あのレアル・マドリードが関心を示したという話もある)、マシュー・ベイツのフレッシュペアも、おそらくプレミアのどこかに買われていく公算大と言われている。大黒柱のダウニングにも当然声がかかるだろう。彼についてはギブソンも「彼の代表キャリアのこともある以上、ふさわしい話があれば快く送り出すつもりだ」と明言しており、この1月に獲得に動いたスパーズ(トテナムの愛称)入りが有力とうわさされている(ただし、最終戦の一つ前の試合で右足を骨折し、来季前半の出場が微妙なために“見送られる”可能性もある)。

プレミア復帰への期待と予感

 つまり、かなりの戦力ダウンを覚悟せねばならない。なにしろ、プレミアとチャンピオンシップの“経済格差”は最低でも60億円前後、“効果”まで含めると150億円近くに及ぶともいわれ、必然的に補強予算が限られてしまう以上に、高給取りのプレーヤーをそう多く抱えきれなくなるのがつらいところ。ちなみに、ニューカッスルではかねてより、オーウェン、マルティンス、ヴィドゥーカ辺りの退団が濃厚と伝えられている。

 ただし、現時点で上記の面々の移籍が決まったという話は皆無であって、結局蓋を開けてみれば戦力にさしたる変動もなく……という好ましい事態も予想できないわけではない。実際、それとなく退団の意向をにおわせているのは、今のところニューカッスルのヨナス・グティエレスとジェレミ、ボロのトゥンジャイ、ベイツくらいで、むしろ強く残留を希望する声の方が圧倒的に多いのである。例えば、デイミアン・ダフ、ニッキー・バット(共にニューカッスル)、エマニュエル・ポガテツ、デイヴィッド・ウィーター(共にミドゥルズブラ)……。

 夏の移籍解禁期間が閉じられるまでまだあと3カ月。この先、何がどうなってどう動くかを予測することなど到底できない。しかし、ニューカッスルに熱い“改心した”ファン魂が、ミドゥルズブラに堅実で忠義に厚いクラブ体質が、それぞれに健在ならば、チームの骨格に致命的な変化も訪れず、1年でプレミア復帰を果たす可能性は、そう、7割以上あると言い切っていいと思う。それはどうやら、信じようと信じまいと、イングランド全土のフットボールファンの「期待」、と言って語弊があるならば「予感」でもあるようだ。某アストン・ヴィラファンとワトフォード(!)ファンもはっきりと声をそろえて述べている。
「両クラブには、実力云々以上に“その義務”がある」

<了>

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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