小野伸二はなぜ輝けないのか?=孤高の天才が抱え続ける苦悩

島崎英純

ドイツでもトップ下で結果を残せず

セントラルMFでプレーしていたフェイエノールト時代。小野はかつての輝きを取り戻すことができるか 【Photo:PICS UNITED/AFLO】

 実はドイツ・ブンデスリーガは諸各国に比べてトップ下がいまだ活況を呈するリーグである。ブラジル代表のジエゴ(ブレーメン)はその代表例で、彼のようなテクニカルな選手であっても、チームのシステムが整備されていれば存在意義がある。また今季躍進しているボルフスブルクではズベズディン・ミシモビッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ代表)がトップ下の位置でアシストを連発し、エディン・ジェコとグラフィテの強力2トップを操っている。
 ボーフムのコラー監督もトップ下を擁するシステムを採用する指揮官だ。しかし小野はそこで結果を残せなかった。

 昨今のブンデスリーガは全般的にハードワークが要求されるタフなリーグでもある。守備時にはチーム全体が自陣に引いてブロックし、攻撃時にはバックラインを高く押し上げてチーム全体が敵陣へと侵入していく。残留争いに巻き込まれているボーフムにおいてもしかり。選手に求められる条件は攻守両面における献身性にある。そしてドイツにおけるトップ下の役割は攻撃専任ではなく、むしろ前線からのファーストディフェンスとチーム全体を掌握するリンクマンの仕事が求められる。
 その意味において、小野がアザウアグとのレギュラー争いに屈したのは、彼の宿命でもある度重なるケガだけが要因ではないと考える。要は、小野はトップ下としては、フィジカルと守備面において評価をされ難い選手であるのだ。

 分かりやすい例を挙げれば、浦和でも同じシチュエーションが起きていた。小野はフィジカルとテクニックを兼ね備えたポンテにトップ下の座を譲り、ベンチ行きを余儀なくされている。ポンテはかつてレバークーゼンで攻撃のタクトを振るったドイツ型のプレーメーカーだ。ドイツ人であるブッフバルト、オジェックがいずれも小野をトップ下の選手と定め、ポンテとの天秤(てんびん)を図り、ひとつの結論を導いたのは興味深い事項である。

小野が生きる道はまだある

 結局、クラブチームで小野をボランチに起用し、その才能をピッチで存分に発揮させたのは、オランダ人のファン・マルワイクだけだった。そして、それは小野自身がこだわる“セントラルMF”というポジションの特異性を表している。

 重症を負った小野は今、日本の地でリハビリに励んでいる。ボーフムとの契約は来年夏まで。彼自身は来季もブンデスリーガで戦う覚悟を決めている。そして、こう思う。彼の生きる道は、まだまだあると。だが、そのためには彼を正当に評価し、彼を生かすシステムを構築する指揮官が必要だ。そして小野は、その指揮官に認められるために自身の存在価値を高めなくてはならない。

 つらいリハビリも不慣れな環境も苦にしない。ピッチでは笑顔を浮かべてプレーし、大好きなサッカーボールと戯れる。しかし、その内面は今、激しく揺れている。果たして彼は、どこに向かおうとしているのか。

「楽しむためにサッカーをする」

 その生き様は、孤高をいく。

<了>

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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