小林大悟、ノルウェーでさらなる飛躍を=未知なる冒険に秘めた思い
大先輩・平野孝の言葉が海外移籍を後押し
チームでは背番号10を託されるなど小林への期待は大きい 【Photo:アフロ】
「平野さんは、オレのことをものすごく買ってくれていた。能力があるやつが何でもっと厳しい環境でやろうとしないのか、上を目指さないのか、そこが歯がゆいっていつも言われていた。オバマ大統領の『チェンジ!』に掛けて、『今こそお前がチェンジ!』って今年の年賀状には書いてあったくらい(笑)」
環境を変えることこそ、自分を変え、レベルアップさせること。無意識の甘えを払拭(ふっしょく)する、と海外移籍を決意した。昨年末には代理人を通じてギリシャ、フランス、トルコ、ドイツなどいくつもの国のチームから不完全ながらオファーは届いた。だが、日本代表歴のほとんどない小林の移籍はスムーズに決まらなかった。興味を示したチームにしても、ほかの選択肢を併せ持ったまま最後の最後まで正式なOKを出さないのだ。
何も決まらずに年が明けてしまい、1月19日に大宮でチームとともに始動する。24日には一般向けの新体制お披露目イベントにも参加。この時点で、どのチームとも正式決定には至っておらず、気持ちは揺れた。
「この時期というのは、どこでやるにしても、新シーズンに向けて気持ちを入れ替えなきゃいけないタイミングだった。移籍するなど思いっきり全部環境を変える方法もあるし、監督が代わった大宮で新しく気持ちを入れ替える方法もあった。どこで今季プレーするにせよ、とにかく気持ちを早めに決めたかった」
だが、実際にスタベイクからのオファーが届いたのは、大宮がプレシーズンのメーンキャンプ地であるグアムへ出発する前日の1月27日。契約上は大宮の一員としてグアムキャンプに参加した後にスタベイクに合流しても何ら問題はなかったのだが、普通の日本人の感覚ではそうはいかない。小林自身もそれは望んでいなかった。事実上、ギリギリのラインで今回の移籍は決定したのだった。
「ここが終着点だとは思っていない」
大柄な選手が多く、フィジカルコンタクトの激しいノルウェーリーグではあるが、技術的なレベルは決して高くない。だからこそ、彼のプレーは光って見える。
「監督からは、パスなどの技術の高さを認められている。だから、まずはボールに触れと言われる。そして、受けたらFWの裏へ出すパス、ゴールに直結するパスをいつも要求されますね」
リーグ戦が始まる1週間前には、タイトルマッチ(ノルウェー・スーパーカップ)で直接FKを決めてみせ、まずは信頼に応えた。リーグ戦が始まってもCKやFKのキッカーを任されているし、多くの場合、小林を経由して攻撃は組み立てられる。また、開幕戦のいわゆるマッチデープログラムでは表紙の顔になった上、2ページのインタビューまで掲載された。その開幕戦、ハーフタイムにはスタジアムDJによる日本語講座が行われ、観客が声をそろえて「ア・リ・ガ・ト!!」と叫んでいたのだ。期待の高さはピッチ外からもひしひしと伝わってきた。
念願の海外移籍先に、複数あったオファーの中からなじみのないスタベイクに決めたのには理由がある。サンフレッチェ広島、ヴィッセル神戸などでコーチ経験があるヤン・ヨンソンが監督を務めていること、昨季のリーグチャンピオンでありチャンピオンズリーグの舞台に立てるということももちろんある。
だが、それだけではない。「チームとして、選手が(ほかの欧州のリーグに)出ていくタイプのチームだし、今後のことを考えてここを選んだ。ここが終着点だとは思っていない」と、今後を見据えての決断だ。
環境は変えた。あとは、彼自身がどこまで変われるかが、目指す未来を手にできるか否かの鍵になりそうだ。
<了>