イングランド対イタリア、欧州での覇権争い=UEFAチャンピオンズリーグ2008-09
失速気味のアーセナル、モチベーションが高いローマ
ローマはCL決勝の地、ホームスタジアムのオリンピコにたどり着けるか 【Getty Images】
そのローマは、グループリーグ第4戦で難敵チェルシーを3−1で下すなど、強豪相手にめっぽう強い。ローマを率いるスパレッティ監督は、アーセナル戦を前に次のように語っている。
「アーセナルと対決できることをうれしく思う。われわれは、対戦相手がより強豪であればあるほど、ベストなパフォーマンスを披露できる」
いや、まったくもって彼の発言は正しい。ローマはグループステージの初戦で、ルーマニアのCFRクルージュにまさかの敗戦を喫した(ホームで1−2)。格下を苦手とするローマにとって、逆にアーセナルは格好の対戦相手となる。勝利に飢えたスパレッティ軍団は、目をぎらぎらとさせているに違いない。
実はもうひとつ、彼らのモチベーションを劇的に上げる重要な要素がある。それは、今シーズンのCL決勝の舞台が、ローマのホームスタジアムであるスタディオ・オリンピコで開催されることだ。ホームでCL決勝を戦える――これほど素晴らしい瞬間はない。
リベンジを期するラニエリと経験豊富なヒディンク
ユベントスを率いるラニエリ監督は以前、今回の対戦相手となるチェルシーで指揮を執っていた。チェルシーのオーナーであるアブラモビッチがラニエリ監督の力量に不満を示し、事あるごとにクラブから彼を追い出そうとしていた話は有名。だからこそラニエリにとって、チェルシー戦はアブラモビッチに復讐(ふくしゅう)する絶好のチャンスである。ところが彼は、白々しくこう語る。
「アブラモビッチにリベンジ? そんなものは存在しない。わたしはチェルシーで過ごした素晴らしい時間を彼に感謝したいだけだ」
なぜ、誰がどう見ても分かり切ったうそをつくのだろう。リベンジを果たすことが、どれだけ大きな満足をもたらすことか。まったくサッカー監督はうそつきが多い。
一方のチェルシーは今月の初め、成績不振を理由にスコラーリ前監督を解任。ロシア代表監督を務めるヒディンクを新監督として迎え入れた。経験豊富で、戦術家で、ある意味“ずる賢い”と評価されるこのオランダ人指揮官は、どんな環境下でも常に結果を残して名声を高めてきた。02年の日韓ワールドカップ(W杯)での韓国代表、06年のドイツW杯でのオーストラリア代表、そしてユーロ(欧州選手権)2008でのロシア代表。必ずしも強豪とは言えないチームばかりだ。だが、今回の仕事場は、ワールドクラスの選手をそろえたチェルシーである。CL制覇は彼にとって、さほど困難なミッションではないように思えてしまう。
この両者の対決はハイレベルであるがゆえに、個々の能力、あるいはちょっとしたミスで、試合の趨勢(すうせい)が決まる可能性がある。さらに言えば、両チームのエース級の選手の出来が、試合を左右するだろう。例えばチェルシーなら、アネルカ、ランパード、デコ。ユベントスなら、デルピエロ、アマウリといった選手である。
「おいしいものは最初に楽しもう!」
近年、イングランド・プレミアリーグのサッカーは、その素早いパス回し、そして展開の速さで、多くのサッカーファンの心をつかんだ。一方のイタリア・セリエAでは、第1に堅守、第2に堅守、第3にも堅守といったサッカーが、いまだに多く見られる。どちらに魅力を感じるかは別として「見ていて楽しいサッカー」となると、やはりイングランドに軍配が挙がるだろう。逆にセリエAのテレビ観戦は、時として睡魔との戦いにもなる(特に夜中に試合がある日本の皆さんなら、経験済みだろう)。
だが、24日と25日のCLに関しては、その心配は無用である。多少の睡眠時間が削られようとも、それを補うだけの興奮がCLにはある。そう、今回ばかりは「おいしいものは最初に楽しもう!」なのである。
<了>