イングランド対イタリア、欧州での覇権争い=UEFAチャンピオンズリーグ2008-09

失速気味のアーセナル、モチベーションが高いローマ

ローマはCL決勝の地、ホームスタジアムのオリンピコにたどり着けるか 【Getty Images】

 アーセナルとローマの対戦は、おそらく多くの人間が「アーセナルが本命」と感じているに違いない。ロンドンを本拠地とする“ガナーズ”(アーセナルの愛称)のサッカーこそ「世界で最もモダンなサッカー」だと崇拝する人も多い。だが今のアーセナルは、リーグ戦で格下相手に勝ち点を取りこぼすなどの不振が続き、ベンゲル監督は頭を抱えている。チームの“心臓部”であるセスクのけがが災いし、華麗なパスサッカーの魅力が半減したのは周知の通り。しぶといローマが相手となると、一筋縄では行かないだろう。

 そのローマは、グループリーグ第4戦で難敵チェルシーを3−1で下すなど、強豪相手にめっぽう強い。ローマを率いるスパレッティ監督は、アーセナル戦を前に次のように語っている。
「アーセナルと対決できることをうれしく思う。われわれは、対戦相手がより強豪であればあるほど、ベストなパフォーマンスを披露できる」

 いや、まったくもって彼の発言は正しい。ローマはグループステージの初戦で、ルーマニアのCFRクルージュにまさかの敗戦を喫した(ホームで1−2)。格下を苦手とするローマにとって、逆にアーセナルは格好の対戦相手となる。勝利に飢えたスパレッティ軍団は、目をぎらぎらとさせているに違いない。
 実はもうひとつ、彼らのモチベーションを劇的に上げる重要な要素がある。それは、今シーズンのCL決勝の舞台が、ローマのホームスタジアムであるスタディオ・オリンピコで開催されることだ。ホームでCL決勝を戦える――これほど素晴らしい瞬間はない。

リベンジを期するラニエリと経験豊富なヒディンク

 チェルシー対ユベントスは、実に興味深い一戦である。イタリアの名門ユベントスは、グループリーグで最も警戒していた相手、レアル・マドリーをホームとアウエーの両方で粉砕した。セリエAでは、1月28日のウディネーゼ戦、31日のカリアリ戦で連敗を喫したものの、その後は何とか持ちこたえて、現在は首位インテルに続いて2位をキープしている。

 ユベントスを率いるラニエリ監督は以前、今回の対戦相手となるチェルシーで指揮を執っていた。チェルシーのオーナーであるアブラモビッチがラニエリ監督の力量に不満を示し、事あるごとにクラブから彼を追い出そうとしていた話は有名。だからこそラニエリにとって、チェルシー戦はアブラモビッチに復讐(ふくしゅう)する絶好のチャンスである。ところが彼は、白々しくこう語る。
「アブラモビッチにリベンジ? そんなものは存在しない。わたしはチェルシーで過ごした素晴らしい時間を彼に感謝したいだけだ」
 なぜ、誰がどう見ても分かり切ったうそをつくのだろう。リベンジを果たすことが、どれだけ大きな満足をもたらすことか。まったくサッカー監督はうそつきが多い。

 一方のチェルシーは今月の初め、成績不振を理由にスコラーリ前監督を解任。ロシア代表監督を務めるヒディンクを新監督として迎え入れた。経験豊富で、戦術家で、ある意味“ずる賢い”と評価されるこのオランダ人指揮官は、どんな環境下でも常に結果を残して名声を高めてきた。02年の日韓ワールドカップ(W杯)での韓国代表、06年のドイツW杯でのオーストラリア代表、そしてユーロ(欧州選手権)2008でのロシア代表。必ずしも強豪とは言えないチームばかりだ。だが、今回の仕事場は、ワールドクラスの選手をそろえたチェルシーである。CL制覇は彼にとって、さほど困難なミッションではないように思えてしまう。

 この両者の対決はハイレベルであるがゆえに、個々の能力、あるいはちょっとしたミスで、試合の趨勢(すうせい)が決まる可能性がある。さらに言えば、両チームのエース級の選手の出来が、試合を左右するだろう。例えばチェルシーなら、アネルカ、ランパード、デコ。ユベントスなら、デルピエロ、アマウリといった選手である。

「おいしいものは最初に楽しもう!」

 そろそろ話をまとめることにしよう。
 近年、イングランド・プレミアリーグのサッカーは、その素早いパス回し、そして展開の速さで、多くのサッカーファンの心をつかんだ。一方のイタリア・セリエAでは、第1に堅守、第2に堅守、第3にも堅守といったサッカーが、いまだに多く見られる。どちらに魅力を感じるかは別として「見ていて楽しいサッカー」となると、やはりイングランドに軍配が挙がるだろう。逆にセリエAのテレビ観戦は、時として睡魔との戦いにもなる(特に夜中に試合がある日本の皆さんなら、経験済みだろう)。

 だが、24日と25日のCLに関しては、その心配は無用である。多少の睡眠時間が削られようとも、それを補うだけの興奮がCLにはある。そう、今回ばかりは「おいしいものは最初に楽しもう!」なのである。

<了>

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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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