相馬も参戦! 注目のマデイラ勢=市之瀬敦の「ポルトガルサッカーの光と影」
「オ・ケ・エ・ナシオナル・エ・ボン!」
すでに2試合に先発出場したマリティモの相馬 【Photo:アフロ】
「ナショナルなものはよい」というフレーズを思い出す理由は、今年のリーグ戦で得点王争いを演じている選手が、軒並みポルトガル人だからというわけではない。実際、ゴールランキングを見ると、トップ10にはポルトガル人は1人しかいない。もし現時点でリーグMVPを選べと言われても、ポルトガル人選手が選ばれることはないだろう。
ではなぜ「ナショナルなものは良い」のか、第18節を終わった時点でのリーグ順位表を見てほしい。現在、5位に位置しているのが「Nacional」なのである(ただし「ナショナル」ではなく「ナシオナル」と発音する)。
ナシオナルは、大西洋に浮かぶマデイラ島のクラブチーム。マデイラ島と言えば、最近ではクリスティアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)の出身地として知られるようになった。大航海時代の初期に「発見」された時には無人島だったが、戦略的な価値もあり、すぐに入植が始まり、現在は26万人を超える人々が暮らす。温暖な気候が魅力で、海外からも多数の観光客が訪れている。
現在5位と好調なナシオナルについて
マデイラ島の富裕層に支えられてきた、このクラブの出身選手と言えば、まず挙げられるのが「世界一の選手」C・ロナウド(ただしユースチームのみ)。さらに、現在アトレティコ・マドリーでプレーするポルトガル代表のパウロ・アスンソンも、かつてナシオナルの白と黒の縦じまユニホームにそでを通していた。
そんなナシオナルが、今季は第18節を終えて5位と健闘している。チームの指揮を執るのはマヌエル・マシャード監督。いわゆるビッグクラブとは縁がない監督だが、ギマラエス、ブラガ、アカデミカ・コインブラなど、主に中堅クラブを率いて実績を残してきた。記者会見などでは独特な言い回しが多く、何を言いたいのかよく分からない時もあるのだが、最近は機嫌が良さそうだ。
どちらかというと「守備的な戦術を好む」とされるマシャード監督。だが、ナシオナルは今季、ポルトと並ぶ攻撃力を誇るチームに変身した。今月13日に行われた、監督の古巣ギマラエスとの試合でも3−0というゴールラッシュを見せたように、なかなかの破壊力である。攻撃陣の中心はFWのネネ。ここまで14ゴールを挙げ、ダントツで得点ランクの首位を走っている。ネネは国産ではなく、ブラジル出身ではあるが、マシャード監督が自分の眼で発掘した逸材である。
さらにチームの主力としては、ASローマが関心を示したとも言われるブラジル人DFフェリペ・ロペス、同じくブラジル人DFアロンソ(なぜベンフィカが、突破力あふれるこの左サイドバックを獲得しないのか不思議だ)、よく走り点も取れるMFルベン・ミカエル(22歳と若いポルトガルの新星)などの名前は覚えておいてよいだろう。
率直に言って、ブラジル人選手に支えられるナシオナルを見ていると「国産が良い」と口にするのがはばかられるのだが、今季の「ナシオナルのサッカーが良い」ということは、自信を持って断言できるのである。そう、まさに「オ・フテボル・ド・ナシオナル・エ・ボン!」なのである。
ライバル、マリティモには相馬が加入
マリティモにかつて所属した有名選手としては、FCポルトの偉大な主将にしてポルトガル代表DFとしても活躍したジョルジュ・コスタ、ブラジルからポルトガルに国籍を変更したDFペペ(レアル・マドリー)、今年からプレミアリーグのボルトンに移籍したマククラらがいる。
マリティモは、もともとはマデイラ島の労働者階級に支持されるクラブであり(最近は階層を越える支持を得ている)、したがってナシオナルより幅広い人気を誇る。「マリティモ」とは「船乗り」や「海事関係者」を意味する言葉であり、創設者にマデイラ島の首都フンシャルの港で働く労働者が多かったことをうかがわせる。
さらに、その人気は海外にも及び、ブラジル、アンゴラ、カボベルデなどの旧ポルトガル領諸国でもサポーターが多い。理由の一つは、マデイラ島から移住した人々が多いからである。また、マデイラ島の知事、毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい政治家アルベルト・ジョアン・ジャルディン氏も、マリティモ・サポーターを自称している。
そのマリティモに1月末、元浦和レッズの相馬崇人の移籍が決まったというニュースを聞いた時は驚かされた。レッズ・サポーターの1人として、わたしも彼の欧州挑戦の行方がどうなるのか気にはなっていたのだが、まさかポルトガルリーグ、しかも大西洋に浮かぶマデイラ島のチームに向かうとは夢にも思わなかったのである。