森本貴幸、本物の点取り屋へ=ホンマヨシカの「セリエA・未来派宣言」

ホンマヨシカ

カターニアで迎えた3シーズン目の試練

ユベントス戦ではGKブッフォン(手前)からゴールを奪い、今季3点目をマーク 【Photo:アフロ】

 セリエAのクラブに在籍する唯一の日本人選手、森本貴幸はカターニアに入団して3シーズン目を迎えている。
 3シーズン目といっても、入団時の年齢が18歳5カ月とセリエAに参戦した日本人選手の中で最も若く、さらにベテランと中堅でチームを構成しているクラブが圧倒的に多く、ヨーロッパの他国リーグに比べて若手選手の居場所が少ないセリエAでは、年齢的にはまだまだ“ひよっこ”のような存在だ。
 しかし、その“ひよっこ”が12月21日に行われたセリエA第17節のローマ戦で2ゴールを挙げ、カターニアの勝利に貢献した。この活躍がイタリアのマスコミにも大きく取り上げられたことはまだ記憶に新しい。そして2月8日、第23節のユベントス戦でもスタメン出場し、後半6分に今季3点目となる同点ゴールを記録。試合は惜しくも終了間際に決勝ゴールを奪われ敗戦を喫したが(2−1でユベントスが勝利)、森本はセリエAというハイレベルな舞台でも十分に通用するアタッカーへと成長していることを証明して見せた。

 森本はカターニア入団後、プリマべーラ(ユースチーム)での4カ月間の修行を経て、2007年1月29日のアタランタ戦で初めてセリエAのピッチに立った。そのアタランタ戦では1点を追う後半39分に途中出場し、わずか4分後に起死回生の同点ゴールを決めて多くのサッカーファンや関係者を驚かせた。
 だが、その後の道のりは決して順調と呼べるものではなかった。デビューシーズンの3月には練習中に左ひざ前十字靭帯(じんたい)損傷というアクシデントに見舞われ、結局1年目のセリエAでは5試合1得点の成績に終わった。
 それでも、森本はその年のシーズンオフにカターニアへの完全移籍を果たしている。これはクラブ首脳陣が森本の潜在能力を認め、さらなる成長を確信していた証しとも言える。故障から復帰した07−08シーズンはパルマとの開幕戦に出場し、ゴールを決める幸先の良いスタートを切った。だが、結局2シーズン目も14試合1得点(コッパ・イタリアでは3試合1得点)と期待外れに終わった。

 では今シーズンはどうか。コッパ・イタリアではパドバ戦で2ゴールを決めたが、リーグ戦ではローマ戦で2得点を挙げるまで、16試合中5試合の出場にとどまり、しかも無得点と納得できる内容ではなかった。ちなみにその5試合の内訳は、スタメン出場が4試合、途中出場が1試合。スタメン出場に関して言えば、90分間プレーしたのは1試合のみ(第7節のパレルモ戦)。残りはすべて後半15分から26分の間に交代させられている。

強力なライバルの存在により苦しい立場に……

 3年目を迎えた森本がレギュラー争いで苦戦を強いられたのは、カターニアの戦力補強とも関係している。昨夏、カターニアはミケーレ・パオルッチ、ジャンビート・プラズマーティ、そしてルーマニア人のニコラエ・ディカと、3人のアタッカーを獲得した。
 パオルッチ(23歳)はユベントスのプリマベーラ出身。プリマベーラ時代に記録した通算184ゴールは、ユベントスのジュニアレベルでの歴代最多ゴールを誇る。カテゴリー別のイタリア代表では、U−17代表を皮切りに、U−19、U−20、そしてU−21代表にも選出された。セリエAではカターニアに来るまで、得点能力を発揮できずにいたが、なかなかの実力者と見ていいだろう。
 プラズマーティ(26歳)は決して得点力のあるFWではないが、198センチの高さを生かしたポストプレーを期待されての加入。ルーマニア代表のディカ(28歳)はかつて同国の名門ステアウア・ブカレストでプレーしており、ルーマニアでの監督経験があるカターニア監督のワルテル・ゼンガがその才能を見込んで獲得した。

 これら3選手以外にも、カターニアには森本にとって強力なライバルがいる。チームの大黒柱としてゴールを量産するジョナタ・スピネージ(30歳)はひざの負傷でリタイアしていたが、チャンスメーカーであり得点力にも秀でたテクニシャンのジュゼッペ・マスカーラ(29歳)や、ウルグアイ代表FWのホルヘ・マルティネス(25歳)は健在。そのため、森本が起用される回数はより少なくなるであろうことは、シーズン前から容易に予想できた。
 ただし、ゼンガ監督はレギュラーをそれほど固定せず、練習での選手のコンディションや対戦相手の戦術的特徴を考えながら、起用選手とシステムを頻繁に変更するため、森本にも多少の出場チャンスが与えられた。
 シーズンが開幕すると、ゼンガ監督は試合ごとにアタッカーを代えた。例えば、並外れたテクニックと得点感覚を併せ持つマスカーラなどは、ローマにおけるトッティのような存在で、不動のレギュラーとして固定させてもおかしくないのだが、試合によってはベンチに置いている。それ以上にゼンガ監督がユニークなのは、(おそらく選手全員に責任感を持たせるためだろうが)キャプテンをも固定させていないところだ。この判断の良し悪しはともかくとして、セリエAでキャプテンを固定させないチームを見たのは初めてのことである。

 そのゼンガ監督は前線でさまざまな組み合わせを試みている。以下は開幕から第16節(森本が2得点を決めたローマ戦の前)までのリーグ戦、各選手の出場記録、成績である。

マスカーラ:先発出場13試合+途中出場1試合=計14試合(7得点)
パオルッチ:先発出場11試合+途中出場2試合=計13試合(4得点)
プラズマーティ:先発出場4試合+途中出場7試合=計11試合(2得点)
マルティネス:先発出場9試合+途中出場5試合=計14試合(1得点)
ディカ:先発出場1試合+途中出場1試合=計2試合(無得点)

 第16節までの森本の起用が先発出場4試合、途中出場1試合(無得点)だったから、数字を比較すれば、森本のカターニアでの立場がどのようなのものだったかよく分かるだろう。

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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