森本貴幸、本物の点取り屋へ=ホンマヨシカの「セリエA・未来派宣言」

ホンマヨシカ

ローマ戦の2ゴールでセリエB移籍を覆す

し烈なレギュラー争いの中、森本は自らのゴールで出場チャンスをつかんだ 【Photo:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 昨年末、このような状況にもかかわらず、カターニアは森本との契約を2011年まで延長した。さらにゼンガ監督とクラブ首脳陣は、森本がまだ20歳と若いこと、ウインターブレーク明けの1月からリハビリ中のゴールゲッター、スピネージが復帰することもあり、経験を積ませる考えから、森本をセリエBのクラブに期限付き移籍させることを決めていた。
 セリエBは技術面では見劣りするが、メンタル面ではセリエA以上に厳しいリーグかもしれない。上位と下位の実力が伯仲し、よりタフなセリエBでもまれることは、経験が必要な若い選手にとって決してマイナスにはなるまい。過去にも、フィオレンティーナ時代の若かりし日のバティストゥータやイタリア代表FWのトーニなどもセリエBを戦うことで大きく成長したのだ。

 それだけに、ローマ戦でのスタメン起用は全く誰も予想していなかった。ゼンガ監督は試合前日までの練習を見て、マスカーラとコンビを組むパートナーを森本に決めたというが、5連勝中の好調ローマとの試合で、それまで4ゴールを決めているパオルッチではなく、無得点の森本を起用したことに首をかしげる人も多かった。
 だが、この試合での森本は、ゼンガ監督の見込みどおり開始早々から抜群のキレを見せた。鋭い動き出しで何度もローマのGKドーニが守るゴールを脅かすと、前半40分に訪れた5度目のゴールチャンスを鮮やかに決めた。さらに森本は後半11分にもペナルティーエリア内から右足シュートを沈めて勝利に貢献。後方からのパスを右足インサイドでコントロールして流し込んだ1点目も素晴らしかったが、往年の名ストライカー、パオロ・ロッシのゴールを彷彿(ほうふつ)とさせる「点取り屋」としての能力を見せつけた2点目の方が、より印象的なゴールだった。

 森本のカターニアでの立場は、ローマ戦のパフォーマンスで大きく変わった。この2ゴールによりクラブはセリエBへの期限付き移籍の計画を見直したのだ。
 試合後のインタビューを受けた森本は、クラブ側の方針転換を知る由もなく、「セリエBへの移籍は僕にとってマイナスではない」との談話を残していた。
 カターニアのゼネラルマネジャーであるロモナコはこの移籍話について、「わたしは最初から森本を期限付き移籍させようとは考えていなかった。ゼンガがそう言っていたとしても、選手の移籍を決めるのはわたしの仕事であって、監督の仕事ではない」と、まるでゼンガ監督の一人相撲であるかのように発言していたが、ローマ戦での活躍がなかったなら、おそらくセリエBへの期限付き移籍は実行されていたであろう。

 そして年が明けた1月11日、第18節のナポリ戦では、森本がキャプテンマークをつけてピッチに立ち、90分間フル出場。2試合連続得点とはいかなかったが、ゴールゲッターとしての存在感を見せている。前半45分、マスカーラのスルーパスを受けた森本が左足シュートを放つと、ボールはきれいにゴール左隅に吸い込まれた。しかし、主審は森本がボールを受けると同時に前半終了のホイッスルを吹いていたためゴールは無効となってしまった。
 このエピソードは主審のホイッスルが前半44分55秒で吹かれたとして、スポーツ番組でも議論を呼ぶことになった。全国放送のテレビ番組で森本の話題が最も多くの時間を割いて取り上げられたのが、2ゴールを決めたローマ戦ではなく、このナポリ戦の幻のゴールだったとは皮肉な話だが。

従来の日本人FWとは違う、本物の点取り屋

 それはともかくとして、ローマ戦を境に、森本はカターニアの攻撃に欠かせない選手になったことだけは確かである。現にカターニアは冬の移籍マーケットで、森本とFWのポジションを争っていたプラズマーティをアタランタに期限付き移籍させている。
 カターニアサポーターのサイトを見ると、森本は「タカ」の愛称で親しまれ、カターニアという町になじんでいることがよく分かる。サポーターにとって18歳で入団した森本は、「外国人助っ人選手」ではなく、カターニアが育てた選手という感覚なのかもしれない。
 ローマ戦以降、ピッチに立つ森本からは、これまでの日本人選手にはない点取り屋としての風格が漂ってきているように思える。ユベントス戦でも、ペナルティーエリア内での鋭い動きで2人のセンターバック(レグロッターリエとメルベリ)を慌てさせる場面が何度も見られたし、この試合で森本が入れたゴールは点取り屋だけに備わっている嗅覚(きゅうかく)が生んだものだった。マスカーラのヘディングシュートをGKブッフォンがはじいたボールに森本は誰よりも早く反応した。

 ユベントス戦が行われる3日前、現地スポーツ紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』に小さい記事だが、森本のこんなコメントが掲載されていた。
「ユーベのような歴史のある名門クラブを相手に気後れはしない?」という記者の質問に対して、森本は「日本人の僕がユーベの歴史を知っていると思う? 僕はただ自分のプレーをするだけ」と恐いもの知らずの若者らしい返答をしていた。ユベントス戦でのパフォーマンスはまさにその答えどおり気後れとは無縁のものだった。

 これまで目にしてきた日本人アタッカーのほとんどは、後方に下がってプレッシングを仕掛けるなど、幅広い動きでチームに貢献するのだが、肝心のゴール前ではストライカーにはほど遠いパフォーマンスしかできない、単なる「汗かきFW」に映った。しかし森本は従来の日本人FWとは明らかに違う、本物の点取り屋を感じさせる。
 いまだ釜本邦茂を超えるアタッカーが生まれない日本サッカーにとって、森本の成長が未来の鍵を握っていると言えるかもしれない。
 ゼンガ監督がローマ戦後のインタビューで話した、「森本は素晴らしい可能性を秘めているが、今学ばなければならないのは、最初のゴールチャンスで決められるようになることだ」という言葉を忘れずに、国際舞台で通用する真のゴールゲッターに成長してくれることを期待したい。

<了>

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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