シャラポワ、壮烈な闘争心でエナンを砕く=全米オープン

武田薫

興奮収まらず

果敢に攻め、二つ目の4大大会タイトルを手にしたシャラポワ 【Getty Images/AFLO】

 試合後の記者会見が異様な殺気に包まれた。バナナをかざしたり、水を示したり、家族席のコーチからマリア・シャラポワ(ロシア)に送られたサインに関しての質問だ。シャラポワは身を乗り出し、顔色を変えて叫んだ。
「私は全米オープンのチャンピオンよ。まさか、みんながバナナのことを聞きたいなんて思わなかったわ(中略)。ああそう、それはいいことを聞いたわ。バナナを食べれば勝てるって、みんなに教えてあげなくちゃね。サンキュー!」
 スタンドの父親やコーチが「バナナ」と言えば(シャラポワが)バナナを食べる姿が、決勝だけでなく大会中に何度かテレビに映し出されていた。コート外からアドバイスを送るコーチングは、いまのところまだ禁じられているため、記者はその内容を知りたがったのだ。シャラポワの挑戦的な対応は、しかし、そのことへの単純な反発ではなかっただろう。決勝のプレーの勢いを引きずっていたのだ。攻めに攻め切った末の、念願のメジャー2勝目だった。

念願への固い決意

 ジュスティーヌ・エナン=アーデン(ベルギー)とは過去に5度戦い、このところは4連敗。しかもエナンは、今回の決勝進出によって、今年の4大大会すべてで決勝に残るという史上7人目の離れ業をやった実力者だ。片手打ちの幅広い攻防に加え、今回はネットプレーを頻繁に散りばめて勝ち上がったベテランを相手に、シャラポワに残された手は多くなかった。持ち味の「勢い」で一気に押し出すしかない。幸い、全米オープンのコートサーフェスは球脚の速いハードコート。サービスに集中する作戦は一貫していた。
 第1セットの第2ゲームをブレークされたが、ここで二つのダブルフォールトがあった。第2セットの最初のサービスゲームでも二つ――サービス・ミスは確かに相手にタダでポイントを献上する失敗に違いないが、強いサーブを打ち込むほどその確率は高くなる。すなわち、攻めれば攻めるほどダブルフォールトも増える。それでも、仮に失点しても、自分の攻撃への強い気持ちは伝わり、それが相手のプレーに影響を与えることにもなる。シャラポワはスロースターターだが、固い決意が表れたのは第8ゲーム。サービスエースから入ってラブゲームで攻め上げてから、続く第9ゲームをブレークして流れを引き寄せた。

2強を倒した自信

全米オープンは初優勝、歓喜の叫びの後には投げキスも 【Getty Images/AFLO】

 大会前、シャラポワの評価は割れていた。8月のサンディエゴ大会で今季2勝目を挙げたプラス評価に対し、エナン、アメリ・モレスモ(フランス)、キム・クライシュテルス(ベルギー)の上位3強との対戦成績が1勝12敗と極端に悪かったためだ。ところが、サンディエゴの決勝でクライシュテルスに7−5、7−5と競り勝ち、自信をつけたのが大きかった。この準決勝ではモレスモを6−0、4−6、6−0で圧倒し、自信が波状的に決勝でも生きた。
「今夜のマリアは、とっても勇敢だった。それがこれまでとの大きな違いだった」
 エナンはそう振り返って完敗を認めている。では、モレスモ、エナンにも勝ったシャラポワの自信は次にどう向かっていくのか。それがこれからの楽しみになった。
 ちなみに、記者会見で問題になったコーチングは、すでに容認・制度化に向け、ツアーで試験的に採用されている。1セットにつき一度だけ指定コーチがコートに降りてアドバイスを与えるというこの改正案は、おおむね選手に好評。おそらく来年は、誰もシャラポワに“イチャモン”をつけることはなくなっているだろう。

<了>
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著者プロフィール

宮城県仙台市出身。男性。巨人系スポーツ紙の運動部、整理部を経て、1985年からフリーの立場で野球、マラソン、テニスを中心に活動。新聞メディアや競技団体を批判する辛口ライターとして知られながら、この頃は甘くなったとの声も。テニスは85年のフレンチオープンから4大大会を取材。いっさいのスポーツに手を出さなかったが、最近、ゴルフを開始。フライフィッシングはプロ級を自認する

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