欧州サッカーを沸かす“挑戦者”ユベントス=「セリエA・未来派宣言」
たった数年でトップクラブに返り咲いたユベントス
わずかの間に欧州のトップに帰ってきたユベントス 【Getty Images】
新生ユベントスを一言で言い表すとしたら、「挑戦者」という言葉がまず浮かんでくる。スキャンダル以降のユベントスは、まさに怒りを胸に秘めた挑戦者だ。以前のユベントスは、イタリア経済界を牛耳ってきたフィアット社の創業者一族アニエリ家をバックに、「スティーレ・ユーベ(ユーベ・スタイル)」と呼ばれている特権意識がちょっとした言動からも感じられ、どうもそれが鼻に付いてしまっていた。
しかし、スキャンダルで首脳陣も新しく入れ替わり、セリエBから再スタートを切ったユベントスからは、これまでの上から見下すようなエリートではなく、何か挑戦者としてのひたむきさのようなものが感じられる。
その挑戦者としてのユベントスだが、昨シーズンはセリエA復帰1シーズン目ということで、スクデット(セリエA優勝)は言うに及ばず、チャンピオンズリーグ(CL)参加資格を獲得できる上位4位までに食い込むことも難しいと思われたが、結果として3位に入る健闘を見せた。
そして復帰2シーズン目の今季は、スクデットとCL優勝を狙うまでに成長した。
2シーズン前にユベントスが勝ち点9(17ポイントから最終的に9ポイント減点の裁定が下された)のハンディキャップを背負ってセリエBのスタートを切った時、ユベントスが再びセリエAでスクデットを争えるようになるには4、5年はかかるのではないか、と言われていたのがうそのように思えてくる。
ラニエリはビッグクラブにふさわしくない?
しかしシーズンが始まると、2勝3分けで臨んだ第6節(ホームでのパレルモ戦)と第7節(アウエーでのナポリ戦)で、ともに1−2と連敗して20チーム中12位という屈辱的な順位にまで下がってしまった。
この時期は、ラニエリ監督の解任のうわさがまことしやかに流れた。こういったうわさは、結果重視の傾向が強いイタリアでは、序盤戦で2連敗すれば必ず出るものと言ってよい。
加えて、ラニエリが監督に就任した当初から一部の批評家が唱えている「良い監督だがビッグクラブにふさわしくない」というレッテルも、解任のうわさが簡単に流布する原因だろう。
「ビッグクラブにふさわしい監督」の定義は何を基準にしているのか。これは、「ビッグクラブを率いた経験とビッグタイトルを獲得した実績」を指すようだ。しかしその基準で判断すれば、過去にユベントスで大成功した監督の中にも、基準にそぐわない人物がいる。
1970年代から80年代にかけてユベントスの黄金時代を築いたトラパットーニも、ユベントスの監督に就任する前はミランを3シーズン指揮していたがスクデットの実績はなかったし、90年代に多くのタイトルをもたらしたリッピは、選手としても監督としてもビッグクラブの経験と実績を持ち合わせていなかった。
しかし、彼らには外部の批判の声から守ってくれる強力なスタッフがいた。そのおかげで、そういった声に惑わされることなく、監督業に専念することができたと言える。
トラパットーニが監督のころは、イタリアで最も影響力のある人物であるフィアットの会長だったジャンニ・アニエリが健在だったし、リッピが監督のころにはルチアーノ・モッジがいた。モッジは審判買収という大汚点を残してサッカー界を追放されたが、サッカークラブのマネジャーとして組織をまとめる能力に長けていた事は否定できないだろう。
彼らに比べると、現在のユベントスの会長をはじめスタッフには、アニエリやモッジのように強烈なパーソナリティーを放ってクラブをまとめる人物が不在だ。もしそのような人物がいるのなら、2シーズン前にユベントスをセリエA昇格に導いたディディエ・デシャンも解任されなかったかもしれない。