欧州サッカーを沸かす“挑戦者”ユベントス=「セリエA・未来派宣言」

ホンマヨシカ

絶頂期をほうふつとさせる活躍でチームを引っ張るデルピエロ

90年代の絶頂期なみのプレーを見せるデルピエロ 【Getty Images】

 それはともかくとして、ラニエリ監督に率いられた今季のユベントスは、2連敗後に行われたホームでのCL、レアル・マドリー戦に2−1で勝利して、監督解任のうわさをひとまず消し去った。その後、カンピオナート(リーグ戦)でのトリノダービーを制するなど公式戦7連勝を記録し、首位を走るインテルに勝ち点3差まで迫った。

 7連勝の立役者はなんといってもデルピエロだろう。今季のデルピエロは90年代半ばの絶好調時に戻ったような素晴らしいプレーを披露している。特にレアル・マドリーとの2試合で3ゴールを決めるなど、圧倒的な存在感を示した。

 だが、開幕前までのデルピエロは決して順調というわけではなかった。デルピエロを常に悩ませてきたのは、負傷、それともうひとつ、絶対的なレギュラーとして認めてもらえるかどうかだった。
 ユベントスのようなビッグクラブになれば毎シーズンのように有能なアタッカーが新戦力として加わってくる。昨シーズンはイタリア代表でもあるイアキンタがウディネーゼから移籍してきたし、今シーズンはパレルモからアマウリが加わった。ラニエリ監督は今夏の強化試合で、デルピエロ、トレゼゲ、イアキンタ、アマウリの4選手に平等にチャンスを与えて、レギュラーを固定しなかった。
 このやり方は確かに公平だが、4人それぞれに不安感と不満を抱かせることにもなる。特に自他ともにユベントスの看板選手として認められるデルピエロにとって、レギュラーが保障されていないことは誰よりも苦痛に感じるのだろう。

 さらに、強化試合でファンタジスタのジョビンコとプレーしたアマウリやイアキンタが、公然とジョビンコが演出するアシストの素晴らしさを褒め、ジョビンコのレギュラー入りを後押しするような発言をした。ジョビンコはMFとしてよりも、セカンドアタッカーとしての起用の可能性が高いことから、こういった発言はデルピエロを不安にさせていたようだ。

 しかし、シーズンが始まって間もなくしてトレゼゲが負傷したことにより、デルピエロのレギュラーはより確実なものになった。精神的に安心感が生まれたからなのか、思い切りの良いシュートが決まるようになった。もうひとつ、デルピエロのプレーの励みとなっているのは、2005年に結婚した愛妻ソニアと1歳になる息子との幸せな家庭が挙げられるだろう。

セリエAよりもCLでの活躍が目立つ

 しかし11月22日に行われたサンシーロでのインテル戦、ユベントスはサイドからの攻撃を封じられて0−1で敗戦。インテルとの勝ち点差を6と広げられてしまった。今季最高のパフォーマンスを見せたインテルのディフェンス陣を前にして、シュートチャンスを作り出すことがほとんどできなかった。しかし、まだ13節を終えたばかり。まだまだインテルを逆転する可能性は残されている。

 カンピオナート以上に善戦しているのは、CLにおいてである。レアル・マドリー、ゼニト・サンクトペテルブルクなどの強豪クラブがそろうグループHで、1試合を残して決勝トーナメント進出を決めている。
 僕はシーズン前にユベントスの戦力を分析して、CLよりカンピオナートの方が力を発揮すると考えたが、CLでのユベントスは、カンピオナート以上に集中力を途切れさせることのない安定感のあるプレーを見せている。これは伝統の強さというか、過去にCLでの修羅場をくぐってきた経験がプレーに表れているように思える。

 最後にデルピエロ以外で、特に印象に残るユベントスの選手を挙げておこう。まず最初に思い浮かぶのはDFのキエッリーニだ。彼は昨シーズンから急成長した選手である。持ち前のスピードと鋭い読みを生かしてのインターセプトは全盛期のファビオ・カンナバーロをほうふつさせるものだし、これまで時折顔を出していた“マテラッツィ・スタイル”のラフプレーもなくなった。イタリア代表でも今一番信頼できるDFとして、レギュラーの座を不動のものとしている。中盤では、超人的な身体能力と運動量を生かして相手ボールをカットするシソコの存在が大きい。
 最後にもう1人、負傷で欠場が続くブッフォンのサブを務めるオーストリア人GKマニンガーも素晴らしい活躍を見せている。レアル・マドリー戦2試合に勝利できたのも、彼の堅実なセーブによるところが大きかった。

 カンピオナートもイタリア勢の参加するCLも、例年になく白熱したものになっているが、その要因のひとつに「挑戦者ユベントス」の戦いぶりがあることは間違いない。

<了>

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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