強豪TASAKI休部の衝撃、今後の行方=なでしこジャパン飛躍の陰で

早草紀子

強豪TASAKIの突然の休部

池田(左)率いる強豪TASAKIが休部するというニュースは大きな衝撃だった 【早草紀子】

 激動の年となった2008年。しかしそれは日本女子サッカーにとっては“飛躍”の意味合いで引用されるものと確信していた。2月の東アジア選手権でなでしこジャパンは初タイトルを獲得。6月のアジアカップでは連続タイトルとはいかなかったが、8月の北京五輪では初の世界大会ベスト4という快進撃を見せた。
 確かな手応えをつかんだ北京五輪を機に、日本女子サッカーは次なるステージへステップアップしていくだろう。誰もがそう感じ取っていたに違いない。その矢先に飛び込んできたのが「TASAKIペルーレFC休部」というニュースだった。

 TASAKIの母体は、1976年に創立された神戸FCのレディース部門で、1989年に田崎真珠(株)へチームが移管された。日本女子サッカーリーグ発足時から加盟している企業チームで、選手たちは午前中は田崎真珠の社員としてさまざまな部署で仕事に従事する。配属はサッカー部だからといって特別扱いはなく、普通入社の社員と同じように決定されるという。指輪やネックレスといった商品のパーツを作ったり、真珠を組んでまさに商品そのものを作ったり、ショールームに立つ者もいれば、総務の職に就いたりと、いたって普通に企業人として働いている。

 その田崎真珠の経営不振により、「大規模な経営、および事業の再生を断行」することになったのである。企業チームのメリットの第一は、収入とサッカー環境の安定だ。そして最大のデメリットは、企業の経営状態によってチーム運営が左右されてしまうこと。今回はまさにそのデメリットが表れてしまった訳である。これに伴い、サッカー部の活動も見直しが行われ、来期以降の日本女子サッカーリーグからの退会が決定。リーグの臨時評議会でも承認された。

チームの将来に関するうわさに一喜一憂する選手たち

代表のレギュラーでもある阪口(左)ら、TASAKIには多くの有力選手がいる 【早草紀子】

 リーグ優勝1回、準優勝4回、全日本女子選手権大会優勝4回、準優勝4回という成績を誇り、今や強豪の一角を担うTASAKIだが、当初は低迷期が続いていた。外国人選手を擁する他チームを横目に、会社の方針から日本人選手のみで戦い続けた結果、敗戦に次ぐ敗戦。上位チームに勝ち星を計算されてしまうチームとして苦しい戦いを続けていた。それでも、あえて“国産素材”のみで戦う姿勢を貫き通した。選手たちは外国人選手に対抗するために走り込み、徹底的にフィジカルトレーニングに打ち込んだ。
 屈指の選手がそろう世界最高峰のリーグと言われたかつての日本女子サッカーリーグ。その中で一戦一戦鍛えられていったTASAKIが、上位に食い込み始めたのは1999年ごろだ。外国人選手の登録枠がなくなり、かねてからの不況により次々とスポンサー企業が撤退していった日本女子サッカーの衰退と反比例するように、チームは力をつけていった。そして2003年、ついに悲願のリーグ優勝を達成するのである。
 このころになると池田(旧姓磯崎)浩美をはじめ、大谷未央、山本絵美、川上直子(現解説者)らが代表入りし、チーム力はリーグのトップクラスをキープするまでになった。

 これだけの実績がある強豪チームだけに、TASAKIの休部は大きな衝撃となって日本女子サッカー界を駆け抜けた。現時点では、TASAKIとしてはすでにリーグからの退会が認められている。
 ただし、リーグが終了する11月23日までにチームの移管先が見つかれば、ディビジョン2からのリーグ参加は可能であるという条件が付いている。これがかなわない場合は、移籍希望者のリストをリーグへ提出し、移籍のオファーを待つことになる。日本サッカー協会の上田栄治女子委員長も「最大限の協力をする」としており、選手たちのサッカー環境の確保を最重要課題として各方面で関係者が奔走している。
 しかし、今はご承知の通り、世界的な経済不安が日本にまで広がっており、状況は厳しいと言わざるを得ない。それ以上に嘆くべきは、うわさがうわさを呼び、選手に少なからず悪影響を与えてしまったことだ。「Jリーグのチームが手を挙げている」だとか「移管候補の企業が現れたらしい」などという情報がまことしやかに広まり、耳に入れば喜び、否定されては落ち込み、選手たちはその度に一喜一憂するはめになっていたのである。現状は、すべてが未定だという。

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著者プロフィール

東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりJリーグ撮影を開始。1996年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルカメラマンとなる。以降、サッカー専門誌で培った経験を武器に、サッカー撮影にどっぷり浸かる。現在はJリーグ・大宮アルディージャのオフィシャルフォトブラファーであり、日本サッカー協会オフィシャルウェブサイトでは女子サッカー連載コラムを担当している

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