最高の一戦が壊したもの

t.SAKUMA
 8日、後楽園ホールで行われた全日本キックボクシング連盟「Krush!〜Kickboxing Destruction〜」では、山本元気(全日本キック)vs桜井洋平(NJKF)という団体のエース同士が激突した。結果は、壮絶な打ち合いの果て、元気が4度のダウンを奪い勝利。はたして、大会名のごとく、2人は何かを破壊し得たのか。
 全試合K−1ルールで行われた今大会、ズラリと並べられた好カードにチケットは完売、立ち見客が溢れる程の盛況だった。後楽園ホールがキック団体の興行で、これだけ埋まっているのは久しぶりではないだろうか。そして今回、並べられた好カードの中でも一番の注目は、メーンイベントで行われる全日本キックの“エース”山本元気と、NJKFの“エース”桜井洋平の一戦。これまで交わることのなかった2人が、K−1ルールのもと、初めて拳を交えた。
 試合は1Rから元気のパンチが火を噴いた。長身の桜井に対して、元気は一気に距離を詰めると、強烈なパンチを叩き込んでいく。すると、「序盤にもらったパンチで意識が飛んだ」という桜井は、元気が打ち込む鼻骨が陥没する程の強烈なパンチもあり、早くもダウン。思いがけない展開に、場内は一気にヒートアップ。その後、桜井も強じんな精神力で最後まで諦めなかったが、結局3Rに元気から4度目のダウンを喰らい力尽きた。

 ところで、今回の興行、いつもは役員席に座っているはずの“キックの魂を受け継ぐ男”小林聡GMは来場しなかったようだ。小林GMにとって、キックのリングで行われるK−1ルールの大会には、なにかしらの異論があったのかもしれないが、それがどのような理由かは本人に聞いてみないとわからない。
 また、今回の興行においては、開催決定時から、キックのリングで行われる“全試合K−1ルール”という内容に、キックを生業としている人たちからは様々な意見が聞かれたのも事実だ。ところが、メーンイベントを戦った張本人である元気は試合後、「これまでのキック界にも様々なルールの試合があった」という趣旨の発言をしている。
 確かに歴史を辿れば、現在のキックルールが定着したのはここ20年程の話で、それ以前は、キックのリングでも様々なルール(頭突きや投げ有り、2分10R制など)で試合が行われてきた。まだ歴史が浅い(と言っても格闘技界では古い)キックボクシングだが、ルールという面では様々な変化を経て現在の標準ルールにたどり着いている。
 元気は大会パンフレットのインタビューでも「昔から俺は全然ルールにこだわりはないし、どんなルールでも強い奴は強い。(中略)とくにキックは世界中にルールがいっぱいあるし、選手は全部対応しなきゃいけない と思っている」と発言する。
 今大会、特にメーンイベントで行われた打撃の攻防は、ひじ打ちはなくとも存分に見応えのあるもので、会場は熱気に包まれた。それは、打撃の攻防が、ひじ打ちの有無に関わらず、純粋に面白いということを再認識させるものでもあった。そして、元気はその見応えのある打撃で、桜井の身体を文字通り“破壊”にまで追い込んだ。
 ところが、この大会においては、元気、また桜井が戦いの果てに本当に破壊したものとは、むしろ互いの存在ではなく、大会名「Krush!〜Kickboxing Destruction〜」 (Destructionは破壊)のとおり、キックボクシングそのものの破壊であり、これまで基準とされてきたキックボクシングのルールや、現時点で複数存在するキック団体の壁など、業界が長らく持つ概念の破壊だった。まさに、大会名が匂わせる大会の趣旨を、これまで生粋の純キックボクサーとして活躍してきた2人がリング上でやってのけた。

 2人は、面白いものは面白く、それはルールとは関係ないところにあるということを、また団体の壁を越えれば、これだけの熱い戦いを見せられるということを証明した。
 今大会が、全試合K−1ルールという掟破りにより、現在のキックボクシングを一度破壊に追いやったのであるならば、メーンを背負った元気、桜井、そして全日本キックには再び新たな道を開拓していくことが期待される。元気は試合後の囲み会見で、「今度はNJKFのリングに上がってもいいし、その他のキック団体に上がってもいい。K−1から声が掛かるならK−1のリングにも上がる」という趣旨の、頼もしいコメントをしている。
 元気、桜井、全日本、NJKF、J−NET、M−1、そしてK−1。様々なカードが散りばめられた今大会を経て、業界全体がどのような道を造り上げていくのか。12月に大阪で予定される、多団体から選手が出場するキックボクシングのトーナメント大会「TOUITSU」の興行も含めて、今後のキック界の新たな展開に期待したい。
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