「限界説」をはねのけ、復活を遂げた村主=スケートカナダ

辛仁夏

圧倒的な強さを見せたロシェット

2シーズンぶりにグランプリシリーズの表彰台に上った村主 【Photo:ロイター/アフロ】

 グランプリ(GP)シリーズ第2戦目のスケートカナダ・女子シングルは、前評判通りに地元カナダのジョアニー・ロシェットが制した。2年ぶりのGP優勝を果たしたロシェットのフリーは、『アランフェス協奏曲』。スパンコールをあしらった緑のコスチュームを身にまとい、22歳が躍動した。前日のショートプログラム(SP)で自己ベストの64.74点をマークして首位に立つと、地元ファンの応援を背に、フリーでも1位を堅持して堂々の完全勝利を飾った。今季初戦で、いきなりSPもフリー(124.15点)も総合(188.89)でも自己ベストを更新するなど、シーズンを快調に滑り出した。
 ロシェットのフリーは、5種類の3回転ジャンプを跳び、冒頭から3連続ジャンプの3回転ルッツ、2回転トゥループ、2回転ループを成功させ、難しい2連続ジャンプも跳んで見せるなど、内容豊富なプログラムで個性をアピールしていた。特に、難度の高い技として目を引いた、3回転トゥループからステップを挟んで3回転サルコーを跳ぶ連続ジャンプでは魅せた。スピンもステップもレベル3以上を取り、取りこぼしのない完ぺきな演技を披露。技術面では総合2位の村主章枝(avex、163.86点)以下を圧倒するプログラムだった。

コーチを代え、復活を遂げた村主

 ここ2シーズンは目立った成績も残せず、27歳のベテランと強調され、「限界説」も周囲から漏れ聞こえる村主だったが、スケートカナダでの演技ではいまだ成長を続けていることを実証してみせた。SP2位からフリーでは3位になったものの、総合で2位に踏みとどまり、2年ぶりに表彰台からの眺めを味わった。5年ぶりのGP優勝も視野に入っていたが、まだそこまでの力は取り戻していなかった。

 一人のフィギュアスケーターとして、その人生をかけて、大好きなスケートに貪欲(どんよく)に打ち込む姿勢が村主の魅力となっていることは疑いの余地がない。その村主がメダルにあと一歩に迫ったトリノ五輪(4位)以後、迷走していた。
 毎シーズン、大胆な試行錯誤を繰り返し、コーチを変えたり、競技会に向けた調整の仕方を変えたりと、何が最善な方法なのかを探しながら、モチベーションを維持し続けるのは並大抵のことではないはずだ。その上、ルールが大きく変わった今、旧ルールで育った村主にとっては、酷な戦いを強いられている中で、これほど向上心を持ちながら取り組めることは一種の才能と言えるだろう。

 昨オフに、メダリストをつくる手腕を持つ振付師兼コーチのニコライ・モロゾフ氏に師事したことを見ても、彼女が現役にこだわり続けるやる気を垣間見た。一体、今度はどんな風に変わろうと考え、モロゾフコーチに指導を仰ごうとしているのか。
 そして、迎えた今季初戦のスケートカナダで、村主は見事に復活を遂げたと言っても過言ではない。この2シーズンでかなり崩れてしまったジャンプに安定感が戻り、演技全体に余裕が感じられた。それに、プログラムのところどころにモロゾフ効果も見られ、「恋愛」をテーマにしたことも相まって柔らかな印象を醸し出していた。これまでの村主の演技には、どこかギスギスした痛々しい感じがあったが、スケートカナダで見せた演技には、『秋によせて』の曲に調和し、“素直”に表現していたように思えた。

 テレビのインタビューで村主は「勝ちたいと初めて強く思えるようになった」と心境の変化を強調。あきらめ感も出ていた昨今の様子から脱却したことはいい傾向と言えるだろう。ぜひとも、ことしこそは自分の納得のいくシーズンを送ってほしいものだ。

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著者プロフィール

 東京生まれの横浜育ち。1991年大学卒業後、東京新聞運動部に所属。スポーツ記者として取材活動を始める。テニス、フィギュアスケート、サッカーなどのオリンピック種目からニュースポーツまで幅広く取材。大学時代は初心者ながら体育会テニス部でプレー。2000年秋から1年間、韓国に語学留学。帰国後、フリーランス記者として活動の場を開拓中も、営業力がいまひとつ? 韓国語を使う仕事も始めようと思案の今日この頃。各競技の世界選手権、アジア大会など海外にも足を運ぶ。

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