稲本、長谷部に訪れた実りの秋=ブンデスリーガ序盤戦総括

木崎伸也

稲本はドイツに来て初めてのベストイレブン選出

稲本(右)はコットブス戦でアシストを決め、『キッカー』誌のベストイレブンに初めて選ばれた 【写真は共同】

 一方、稲本は先発の座を取り戻すのに時間がかかった。ブラジル人DFのクリスが、ボランチに固定されたからだ。クリスは元々センターバック。彼のフィジカルの強さが評価されたのかもしれない。
 しかし、フランクフルトが10月になっても1勝もできないという危機的状況に陥ったことで、フンケル監督は自らの過ちに気がついた。DFのクリスをMFにしたのは間違いだった、と。

 昨季、フランクフルトが勝ち点を荒稼ぎできたのは、相手によって布陣を変え、中盤で攻撃をつぶす作戦を採用していたからだ。その中心にいたのが、マンツーマンに強い稲本だった。ファン・デル・ファールトやジエゴを押さえ込み、地元記者からはエースキラーとして知られるようになった。
 フンケル監督は10月22日のカールスルーエ戦で、再び稲本をエースキラーとしてピッチに送り込んだ。稲本はカールスルーエのトップ下、ダシルバを完全に無力化し、すきがあれば勝つために前線へと駆け上がった。

 3日後のコットブス戦では、稲本の攻撃参加の頻度はさらに増え、フランクフルトの1点目をアシストした。『ビルト』紙は、この日の稲本を絶賛した。
「コットブス戦は稲本にとって今季ベストの試合になった。運動量があり、1対1の競り合いに強く、視野が広いうえに正確なパスを通した」

 さらに稲本はドイツに来て初めて、『キッカー』誌の「今週のベストイレブン」に選ばれた。
 残念だったのは、コットブス戦のロスタイムに、稲本が負傷してしまったことだ。肉離れで、最低でも2週間離脱しなければならない。
 ただ、稲本本人はすでに気持ちを切り替えていた。
「調子が良かっただけに残念だけど、なったものは仕方ない。とにかく、しっかり治すことに集中したいです」

バイエルンの復調 そして小野伸二は?

 さて、長谷部や稲本だけでなく、クリンスマン新監督率いるバイエルン・ミュンヘンの動向を気にしている方も多いだろう。
 バイエルンにとっても、この秋は“収穫祭”になった。
 7節時点では11位に低迷していたが、8節のカールスルーエ戦から、チャンピオンズリーグのフィオレンティーナ戦を含めて無傷の4連勝。7節のボーフム戦後(3−3)にはスタンドから「クリンスマン辞めろ」コールが起こったが、もうそんな雑音は聞こえてこない。

 バイエルン復活の最大の要因は、クリンスマンの方針転換だ。
 クリンスマンは就任以来、ずっと“ワンタッチ・フットボール”の実現を目指していたが、結果が出なかったことでついにこだわりを捨て、今いる選手の才能を生かす現実路線に切り替えた。まず守備面では、ワンタッチにこだわるあまりに、パスをカットされてカウンターを食らうことが多かったが、それがなくなった。攻撃面でもリベリーやゼ・ロベルトにはドリブルを認め、リズムに変化が生まれるようになった。
 10節にバイエルンは4位に浮上し、この調子で行けば首位でウインターブレークを迎えることができそうだ。アンチバイエルンとしては腹立たしいが、強いバイエルンが帰ってきてしまった。

 バイエルンのことはさておき、日本人ならば、あと1人どうしても気になる選手がいる。
 そう、小野伸二だ。
 ボーフムではアザウアグとのポジション争いに敗れ、出番のない日々が続いている。コラー監督は「シンジにはもっとシュートの意識を持ってほしい」と注文するが、本人もそんなことは百も承知だろう。日本が誇る天才の巻き返しに期待したい。

<了>

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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