ポルトガル、不安だらけの序盤戦=2010年W杯南アフリカ大会欧州地区予選

市之瀬敦

ロナウド対イブラ、“天才”対決の行方は……

W杯予選のスウェーデン戦で不発に終わったロナウド(右) 【Getty Images】

 ついこの間、ユーロ(欧州選手権)2008が終わったと思ったら、早いものでもう2010年ワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会の欧州予選が始まっている。というより、すでに4試合もこなしているのだ(3試合だけのチームもあるが)。

 カルロス・ケイロス新監督率いるポルトガル代表は、9月に行われた初戦のマルタ戦で当然のように勝ち点3を取り、幸先の良いスタートを切ったかに見えた。だが、続くホームのデンマーク戦を2−3で落とすという思わぬ誤算。1勝1敗で勝ち点3は想定外の結果であった。
 となれば、ホームで失った勝ち点をアウエーの地で取り戻しにいきたいところだが、10月11日の第3戦の相手は強豪スウェーデン。簡単に勝てるチームでないことはポルトガルの誰もが分かっていた。もちろん勝ちたいけれど、引き分けも悪くないというのが本音だっただろう。

 試合前、メディアは、クリスティアーノ・ロナウド対ズラタン・イブラヒモビッチという2人の“天才”対決を煽っていた。確かに、両国のスターといえばこの2人の名前を思い浮かべるが、異なるポジションでプレーする別のタイプの選手であり、あまり意味のある比較には思えなかった。
 それよりも興味を引かれたのは、女性ファンに弱いC・ロナウドの集中力を奪うために、美しいスウェーデン人女性サポーターをスタンドに座らせる“作戦”をスウェーデン側が準備しているという記事であった。どこまで本気だったのかは分からないが、C・ロナウドが2本しかシュートを打てず、しかも無得点に終わったところを見ると、功を奏したと見てよいのだろうか。

勝てたかもしれないが、引き分けも悪くはない

 冗談めいた話は脇に置いて、試合の中身である。スウェーデンもベテランのヘンリク・ラーションら故障者が多かったが、ポルトガルもデコ、リカルド・カルバーリョ、シマゥン、マニシェら主力を欠いた。しかし逆にC・ロナウドが6月のユーロ2008以来の代表復帰を遂げたことは大きなプラスであった。スウェーデンは高さを生かしたかっただろうし、ポルトガルはやはりC・ロナウドとナニの2人のドリブル突破でサイドを切り崩し、フィニッシュまでいきたかったはずである。

 実は試合の2日前の練習の中で、ケイロス監督は記者たちに、いわゆる“ゼロトップ”の布陣を披露していた。FWのウーゴ・アルメイダやヌーノ・ゴメスを置かず、ゼニト・サンクトペテルブルクで台頭してきた攻撃的MFのダニーを配置したのである。
 ポルトガルのFWの決定力不足は今に始まったことではないが、「ついにこの日が来たか」と一瞬思ったものの、よくよく考えれば、記者に見せるためのかく乱戦法の一種なのだろうと思い直した。ケイロス監督はばくちを打つタイプではないし、予選3試合目はそのタイミングでもなかった。

 90分間全体を見ると、前半はスウェーデンのゲーム。後半はポルトガルが支配した。イブラヒモビッチがポスト役となり、H・ラーションの代役であるエルマンデルが2度、3度とポルトガルのゴールを襲う。しかし、ポルトガルは第2戦のデンマーク戦と違い、守備陣の安定感が増していた。その一方で、中盤にデコがいないと相手守備陣のすきを突く鋭いパスが出せず、試合の主導権を握られてしまう。やはりデコは不可欠な選手であると改めて認識させられた。

 後半はポルトガルが盛り返して、何度もチャンスを作った。その中でも、左サイドからC・ロナウドのパスを受けたパウロ・フェレイラがペナルティーエリア内で倒された場面は、明らかにPKにしか見えなかった。主審のロゼッティはイタリア人。ずいぶん古い話だが、20年以上も前にポルトガルに暮らし始めたとき、下宿先の大家が「イタリア人が主審だとポルトガルは勝てないんだ」とこぼした言葉をふと思い出した。

 結局、試合は0−0の引き分けに終わった。正直に言うと、ポルトガルには終盤でもっとリスクを冒してほしかったが、デンマーク戦と違い、最後まで試合をコントロールできたことは収穫であった。さらに、来年3月末に今度はポルトガルで予定されているスウェーデン戦で、イブラヒモビッチが累積警告で出場できなくなったのも、もう一つの“戦利品”かもしれない。
 勝てたかもしれないが、引き分けも悪くはない。最大のライバルの1つから、アウエーで勝ち点1をもぎ取ったのは、のちのち大きな意味を持ってくると信じたい。

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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