ロシアの輝きは失われず=W杯予選ドイツvs.ロシア

ヒディンクの発見と確信

ユーロ2008で見せたロシアの強さは相変わらず健在。エースのアルシャービン(中央)もトップコンディションを取り戻しつつある 【Bongarts/Getty Images】

 メディアが勝利者について書き立てることは何も不思議なことではないし、自然の流れと言える。何より本人自身が書いていて気持ちがいいものだ。だが、ドルトムントで起きた試合に関しては、それは当てはまらない。確かにロシアは敗者で、それは紛れもない事実だ。だが、彼らが敗者としてピッチを去ったとは到底思えない。

 ロシアの後半の戦いは目を見張るものがあった。オランダ人のヒディンク監督のさい配能力や統率力を今さら記述するつもりはないが、ドイツ戦の敗戦を通して、彼はある重要な結論に到達したようだ。
 ユーロ2008でロシアが快進撃を見せたとき、ヒディンク監督は左サイドバックに本来MFのジルコフを使い続けた。結果、このさい配が見事にハマり、ジルコフの左サイドからの攻め上がりはロシア旋風の代名詞の1つとなった。
 しかし、オランダ人監督はドイツ戦でジルコフを1つ前のポジションに上げて、左サイドバックにヤンバエフを起用した。結果、前半の彼の出来はイマイチだった。そこで、ヒディンク監督は自らのさい配ミスを認めたかのように、いや認めたからこそ、ヤンバエフをハームタイム中にベンチに下げて、ジルコフを“定位置”に戻したのだ。それは、ヒディンクの最終決断、そしてジルコフの左サイドバックの確約を意味するものだった。
 ヤンバエフの代わりに投入されたのはCSKAモスクワに所属する18歳の超新星ジャゴエフだった。けがから復帰したばかりのジャゴエフはこの試合が代表デビュー。87分の彼のシュートがゴールポストに当たっていなかったら――この試合の結果は引き分けに終わっていたに違いない。
 ジルコフの左サイドバック、新戦力ジャゴエフ。ドイツ戦でヒディンクが得たものは、今後のW杯予選を戦う上で、実に重要な意味を持つ。

ロシアの弱点は守備の層の薄さ

 だが一方で、ロシアは守備面で弱点を露呈してしまった。ユーロ2008では双子のDFベレズツキ、アレクセイとバシリーは、ほとんどベンチを温めるだけに終わった。今思えば、それがロシアにとって功を奏したわけだが、仮に彼ら双子コンビがロシアディフェンスを任されていたら、実に不安定でもろい守備網を形成していたに違いない。
 やはり、イグナシェビッチとコロディンの屈強なセンターバックコンビの方がはるかに頼りがいがある。ユーロ2008準決勝のスペイン戦を累積警告で欠場したコロディンに代わって出場したのは、弟のバシリー・ベレズツキ(以下、V・ベレズツキ)だった(結局、ロシアは0−3で敗退)。
 ちなみに、ロシアでベレズツキ兄弟は“木でできた軍隊人形”というあだ名を付けられている。理由は単純。見かけは怖いが、木でできているために何もできない。さらに、動けたとしてものろまで不器用という散々な理由だ。
 ドイツ戦ではコロディンが足首の負傷で欠場する不運に加え、V・ベレズツキが代わって出場するという、これまた“不運”が重なったわけだ。

 不安は見事に的中。前半9分、ペナルティーエリア手前でドイツのクローゼにボールが渡ると、巧みなボールキープから前線のポドルスキへパス。ポドルスキはV・ベレズツキを背にしながらも体を反転させてゴール前に抜け出すと、左足で冷静に先制点を挙げた。所属先のバイエルンではベンチスタートが多いポドルスキだが、代表では58試合に出場して31得点と、驚異的な得点力を誇る。
 対峙したV・ベレズツキは、ポドルスキの一連のプレーを止められず“木でできた軍隊人形”のあだ名にふさわしい働きをしてしまった。ペナルティーエリア内に侵入を許す前にファウルで突破を阻むことすらできなかった。ヒディンク監督は、彼に代わるDFを早急に探さなければならないだろう。

敗れてもなお、ユーロ2008時の強さは失われず

 後半から出場したジャゴエフは素晴らしい動きを見せた。ユーロ2008で主役級の活躍を見せたアルシャービンも、世界レベルのプレーヤーであることをあらためて証明した。今夏の移籍市場で、次から次へと昼ドラのような展開で話題を振りまいた彼は、ドイツ戦の1ゴールによって、夏の心地よい夢からようやく目覚めたに違いない。本来の輝きを取り戻したことで、所属先のゼニト・サンクトペテルブルクは、冬の移籍市場で彼をより高値で放出する準備ができそうだ。

 ロシアがドイツ戦の敗戦で得たものはこの上なく大きかった。勝ち点を取れなかったことはチームの雰囲気にマイナスに働く可能性もあるが、ロシアはこの敗戦を前向きにとらえるべきだ。後半のロシアは、ユーロ2008で鮮烈なイメージを与えたロシアそのものだったのだから。
 ロシアの著名な『スポート・エクスプレス』紙も、自国の戦いを評価する。
「1−2というスコアだけを見ないでほしい。ドイツ戦の後半のプレーは、ユーロ2000予選で3−2と勝利したアウエーのフランス戦や、ユーロ2008準々決勝で3−1で勝利したオランダ戦を見ているようだった」

 ドイツは現在、当然のようにグループ4の首位に立っている。ロシアは1試合少ない中で4位。15日にはホームで第3戦目のフィンランド戦を迎える。だが、決して驚かないでほしい。予選落ちと言わないまでも、2位でプレーオフに回るのはドイツかもしれない。それでは首位は?――答えは「ロシア」だ。ただし、これは決して運によるものではない。

<了>

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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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