リッピ監督に課せられた新たな使命=2010年W杯欧州予選

ホンマヨシカ

高齢化したW杯優勝メンバーが2年後までもつのか

グルジア戦で大活躍したデ・ロッシだが、ピルロが彼の存在の陰に隠れてしまうことが気がかりだ 【Getty Images/アフロ】

 さてキプロス戦だが、先発メンバーは次の通りだった。
GKはブッフォン、DFは右からザンブロッタ、ガンベリーニ、カンナバーロ、グロッソ、MFは右からカモラネージ、ピルロ、デ・ロッシ、FWは右からジラルディーノ、トーニ、ディ・ナターレ。4−3−3だが、FWの3人が2人のセンターフォワードと1人のサイドアタッカーという非常に攻撃的な布陣で挑んだ。
 これは第8組中最も弱いと思われているキプロスが相手だったからだろう。

 試合は、開始4分でガンベリーニが右肩を脱臼し、バルザッリと交代するという最悪のスタートになったが、しかし前半8分にディ・ナターレがドリブルからのミドルシュートをゴール左隅に決めイタリアが先制した。イタリアにとってこのまま楽な試合展開になると思われたが、今度は前半18分にグロッソが肋骨(ろっこつ)を骨折するというアクシデントに見舞われた。リッピはグロッソに代えて右サイドバックのカッセッティを投入し、ザンブロッタを右サイドから左サイドにコンバートした。

 イタリアは先取点を入れたもののキプロスの中盤での激しいチェックと素早い好守の切り替えに戸惑いあわてふためく展開が続き、前半28分にアロネフティスに同点ゴールを決められた。その後もゲームを支配したのはキプロス。後半に入りイタリアは、センターフォワードのトーニを引っ込め、ガットゥーゾを投入し、前半劣勢だった中盤に厚みを持たせた。しかしイタリアが攻め込まれる状況は変わらず、いく度となく危機を迎えるがブッフォンの攻守にも助けられ、そのまま引き分けで終了するかに思えた。
 そしてほとんど勝利をあきらめかけていたロスタイム2分、イタリアがキプロスのペナルティーエリア内での絶妙なパス回しでジラルディーノ、カモラネージとつないでファーポストに詰め寄ったディ・ナターレにパス。そのボールをディ・ナターレが左足で合わせて決勝ゴールとなった。

 完全に押されていた試合で、負けても文句が言えない内容だった。対戦相手のキプロスを見くびっていたことは間違いないだろう。
 レギュラーDFの2人が前半早々に負傷する不運もあったが、それにしてもキプロスの攻撃にDF陣が振り回されていたのはあまりにもお粗末だった。
 キプロス戦で気がかりだったのは、リッピの信頼が揺るがないカンナバーロとザンブロッタの衰えだ。カンナバーロはユーロ2008直前の負傷からカムバックしたばかりで、これからコンディションが上向いてくるだろうが、すでに35歳を超えた選手だ。この2選手が2年後のW杯まで代表レベルのプレーを維持できるのかどうか、非常に疑問が残る。

デ・ロッシとの併用で、ピルロの持ち味が消えてしまった

 4日後のウディネでのグルジア戦では、リッピは負傷した2選手に代えて、マテラッツィとボネーラを新たに招集した。
 そしてグルジア戦でのスタメンは次の通りである。
GKにブッフォン、DFは右からザンブロッタ、レグロッターリエ、カンナバーロ、ドッセーナ、MFは右からピルロ、アクイラーニ、デ・ロッシ、FWは右からカモラネージ、トーニ、ディ・ナターレという布陣。キプロス戦とおなじ4−3−3だが、右FWにカモラネージを上げ、バランスを良くした。ちなみにドナドーニがユーロ2008で起用した4−3−3と同じである。
 このホームでのグルジア戦は、イタリアが危なげなく試合を進め、前半17分にデ・ロッシが左足ロングシュートを決め先制し、試合終了間際の後半44分に再びデ・ロッシがゴールを決めてグルジアを突き放した。

 2ゴールを決めたデ・ロッシはキプロス戦でも劣勢だった中盤で、唯一奮闘していたが、この試合ではゴールゲッターとしての能力も発揮した。
 ただ、デ・ロッシが出場すると、ピルロのゲームメーカーとしての能力が鈍ってしまうのが気がかりである。セリエA開幕戦でもこのW杯予選の試合でも、ピルロのコンディションが良くなかったこともあるのだが、ピルロとデ・ロッシがそろって出場した試合で、ピルロが素晴らしいプレーをした記憶があまりない。
 プレースタイルは違うが、両選手とも中盤を仕切るタイプである。両者のパス能力などから、ピルロが60%、デ・ロッシが40%ぐらいの割合でゲームメークするのが理想的だと思うのだが、運動量の多いデ・ロッシがボールを持つ回数が多くなり、彼がボールを持つとピルロに預けずに、自らゲームメークしてしまう場合が多い。
 対戦相手はピルロのパスを警戒しているため、デ・ロッシがゲームメークすることで相手の意表を突く結果になっているのかもしれないが、しかし汗かき役のできないピルロの存在が無駄になってしまうのはもったいない。

 この2試合でポジティブだったのは、上記したデ・ロッシとキプロスとの初戦で2ゴールを入れたディ・ナターレ、2試合すべてでイタリアの攻撃のアクセントになっていたカモラネージ、フィオレンティーナに移籍してゴール感覚を取り戻しつつあるジラルディーノ、常に信頼できるブッフォンのプレーだろう。
 逆にネガティブな要素は鉄壁だったはずのディフェンスと、代表では相変わらずゴールから見放されているトーニ、デ・ロッシが活躍するほど陰に隠れてしまうピルロだ。

 ディフェンス陣でも、センターバックについてはユーロ2008でブレークしたキエッリーニが復帰すれば安定感を取り戻せるだろう。問題はこれまで有能な選手を輩出してきたサイドバックだ。代表に招集できるような若い選手が育って来ていない。
 これらのポジションの若返りをどうスムーズにこなして行けるかが、2年後のW杯までにリッピに課せられた宿題だと思う。
 W杯優勝に導いたメンバーは、リッピにとってもっとも信頼できる選手なのは理解できるが、過去にも優勝メンバーに固執したためにW杯連覇に失敗した監督が少なからず存在する。
 次のW杯まで残り2年、リッピがどのような手腕を発揮するのか、お手並みを拝見するとしよう。

<了>

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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