イチローの内野安打と守備エラーの境界線=木本大志の『ICHIRO STYLE 2008』
もしも城島が同じプレーをしたら?
イチローの今季の内野安打は9月7日現在42本で、意外にもリーグ2位につけている 【Photo:Ron Vesely/MLB Photos via Getty Images/アフロ】
マウンドを駆け下りてそれを拾い上げたシドニー・ポンソンは、慎重に一塁へ送球したものの、慎重になりすぎたのか、ワンバウンド。ジェイソン・ジアンビーがうまく拾い上げて事なきを得たが、危ないプレーだった。
さて、ポンソンがボールを捕ったとき、イチローをアウトにする十分な余裕があった。この限りではムシーナと同じだが、もしもジアンビーがボールを落としていたら、記録は「ヒットか、エラーか」ということ。
試合後、それを公式記録員に確認すれば、「ヒットだ」と話した。明らかに余裕があり、ワンバウンドでも?――「ヒット」。
実は、ここに記録員の主観が働いている。
セーフコ・フィールドの公式記録員は、シアトルに来て4年目だが、イチローの足の速さを十分に知っている。「故に、ポンソンが慌てた」となり、イチローの足が悪送球を誘ったということになるそうだ。
野手の慌てぶりが明らかなときもあるが、この日のような余裕のある場面でもそれは適応されるのだという。
では、同じプレーで打ったのが城島健司で(彼を例えに出して申し訳ないが)、ジアンビーが落としたとしたら?
「E1(投手のエラー)」
城島には理不尽だが、イチローが内野安打に関して公式記録員から得るアドバンテージは、否定できない。
確か、やはりボテボテのゴロが三塁前に転がり、三塁手がポロリ。その間に城島が必死に一塁を駆け抜けたものの、「サードのエラー」と記録されたこともあった。
本来、平等であるはずのルールだが、実際はかくも不公平なのである。
8年かけて築き上げたステータス
まさに足で、相手の送球を上回る場合もある。だがこうして、相手にイチローという「名前、顔、足」で野手にプレッシャーをかけ、ヒットを奪うこともある。
好投手やコントロールのいい投手ほど、厳しいコースのボールに対して、主審からストライクを引き出すとされるが、それと同じこと。イチローが8年かけて築いたメジャーでのステータスが、そこに覗(のぞ)かれる。
今季の内野安打は、これで42本目(9月7日現在)。リーグ2位(47本=カルロス・ゴメス)と、まだ上がいるのが驚きだが、3位との差は10本以上開いている。
唐突ながら、8年連続200安打到達までは、残り20試合であと15本だ。
<了>